近づいてゆくうれしさに桐の花 田中 香

 季題は「桐の花」。「桐は高いのは三十尺くらいに達するものもある。五月頃其枝の先に穂を為して筒状の淡紫色の花をつける 。其落花も美しい」 と歳時記は解説する。立子に「電車今まつしぐらなり桐の花」がある。鎌倉から東京に向かう横須賀線が、現在の東戸塚を出て、トンネルを潜り、一気に下って行く辺りに「その桐の木」はあった。下り勾配で横須賀線は素敵に加速しながら右に向かって大きくカーブを切る。その丁度「焦点」に当たる辺りに件の「桐の木」はあった。すっと屹立した「桐の木」は目立っていた。或る時、立子先生に、「この句、あそこでしょ」と伺ったことがあった。先生はにっこり微笑みながら、「そう」と応えられた。この「桐の木」もそうした、皆が知っている「桐の木」に違いない。大分離れた距離からも花の「薄紫」はそれと見えているのだ。徒歩だか、自転車だか判らないが、その木から目を離している間も、作者の心の中には「その色」が灯っている。「桐の花」の持つ気品のようなものが漂っている。(本井 英)

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