極月の吊広告のハワイかな  山内裕子

 季題は「極月」。陰暦十二月の異称であるが、「十二月」というより、いかにも押し詰まった気分が強い。街の様子や、行き交う人々の表情にも、せかせかした慌ただしさが感じられる。また「吊広告」はほとんどの場合、電車あるいはバスの車内に吊すもの。昔は週刊誌の見出しなどが、ゆらゆら揺れていて、「吊広告」を眺めただけで、世間の「話題」が見えるような気がしたものだが、近年は、あまり見入るような「吊広告」にはお目にかからない。

 さて掲出句は、その「吊広告」に「ハワイ旅行」の案内があったというのである。おそらくは旅行代理店あたりのもので、ワイキキビーチを背景に水着の男女が楽しげに頰笑みあっているものであろうか。「極月」のセカセカした気分とは、全くかけ離れた、「夢のような」、それでいて、一ドル三百六十円の時代のような「憧れ」とは違う現実感をもって人々が見上げるものとしてぶら下がっているのである。世界に誇る経済大国であった時代を過ぎて、すっかり零落してしまった日本の現況を考え合わせるとき、なんとも言いがたい、皮肉な「俳諧」を感じさせてくれる一句となった。(本井 英)

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