主宰近詠(2022年9月号)

につかにかの   本井 英

ぞわぞわと腰で歩みて毛虫たり

明易の合戦尾根をうち仰ぎ

麻酔より覚めゆく五体明易き

山法師を見下ろさんとて登るかな

向き合うて待つ踏切や梅雨の晴

あれは亀これは鼈梅雨晴間

一病をたづさへくぐる茅の輪かな

滑莧はぐり生産緑地たり

羽毛下(ハケシタ)の径のほとり代田かな

薫風を棒とつつみて吹き流し


玉網小さし蝶を捕らんや蝦を捕らんや

玄室に幾千年の五月闇

流れゆく蚯蚓の総身ほとびたる

につかにかの笑顔にかぶせ夏帽子

きちかうの蕾の闇の覗けけり

膝の蠅ちらりちらりと吾を見上げ

肘で葉を押しやりて蓮撮つてをり

蓮の花つぼむ力をなほ存し

無患子落花霰ほどには弾まざる

夏雲のころがりながら消え失せし