月への道 本井 英
根治してこれよりの日々山の秋 退屈を愉しみに来し出湯の秋 出湯の秋建てこむ中の薬師堂 絵馬に描く「め」の鏡文字堂の秋 鯉岩魚仕入れて活かし出湯の秋
下山バス出ればにはかに秋冷ゆる 蜘蛛の囲の勲章然と蟬の翅 柳蘭の果ての白髪も潰えんと 混群といふことばあり小鳥来る 風欲しとアサギマダラは高く高く
身の丈を隠しかねをり穴惑 秋草に躙るともなき蛇の胴 蕎麦畑の白の違ひの五六枚 風澄めば花蕎麦の白さらに澄み ここにまた神饌の山葵田かしこみて
山葵田の流れの果てに鱒池を 雑魚ほつほつ羽田の老に秋楽し 航路とて少し深みや鯊さぐる 木犀の香に濃淡や風通ふ後ろ影月への道を辿らるる悼 深見けん二氏
主宰近詠(2021年12月号)
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