主宰近詠(2021年11月号)

やあと握手を    本井 英

黒揚羽臭木咲くよと踏み入れば

落花生の黄花に風のゆきわたり

コンビニの裏山の蜩の声

瞑りてをれば蜩さらに寄す

信長の首塚といふ蜩に



咲きつらね高砂百合の名を得たる

半夏生の実とよつぶつぶ熟れ下がり

楢枯の背景の秋空ふかし

楢枯をかなしかなしと蜩は

飛ぶ羽の色油蟬みんみん蟬



稲の穂のかしぎそむるを風わたる

秋水のたち騒ぎあり渡渉点

秋川を黒部五郎の見送れる

秋川の海への旅のいま始まる

秋水に貼りつくやうに映る峰



紫のその明るさに紫菀かな

紫菀咲けば「やあ」と握手をしたきかな

小諸想ふ庭に紫菀を咲かせては

訃報ひとつ紫菀の庭に届きたる

雲映すあたり白さよ秋の潮

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