主宰近詠(2021年8月号)

鈴木療養所        本井 英

余花の牧百葉箱のやゝ低く

夕風のにはかに立てる余花の牧

忍冬咲きしばかりや紅はしり

まぬかれず窶れ黄ばみて忍冬

磯原を撫でゆく風に跣足かな



ちぬ釣は浪しづかさをぼやきけり

飽きてきしちぬ釣余所見ばかりして

追ひ風にヨツトあやふし前のめり

茅花きらきら此処には鈴木療養所

十薬の蕾このもし葉はさらに



うすら日にぱらりとこぼれ薔薇の雨

稲瀬川の碑あり浜大根満開

ぷくりぷくり浜大根も実をなせる

波乗には向かぬながらも卯浪寄す

卯浪寄すこゝに「大海老」ありしころ



雨音はさつきからあり栗の花

老鶯のあとをひきとり画眉鳥は

恋はいつも少し乱暴業平忌

沖空の黄昏れそめし穴子釣

鴫立庵

この庵や芭蕉巻葉もあらまほし

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