しろのだだ広ごりに海へ出づ   藤永貴之

 季題は「雪しろ」。早春、野山の雪が急に融けて海や河や野に溢れ出ることである。一句の味わい処は「だだ広ごり」。口語で「だだっ広い」などとは言うが「だだ広ごり」と言うかどうか、筆者はその用例を知らない。また「だだ」には「だだ洩れ」などという言い回しもあって、止めどもなく洩れる情況を言い表す。そんなことから初めて耳にする言葉ながら、河口一杯に広ごり湛える「雪しろ」が海へ向かってじりじり移りゆく様が、ありありと目に浮かんだ。

 耳慣れない言葉ながら心を揺する何かがあった。さらに、これが「雪しろ」という毎年の現象であることが、災害の危険性を余り感じさせず、どこか落ち着いて見渡すことができる安心感をもって味わう事のできた秘密かも知れない。「季題」の持っている力であろう。(本井 英)

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