無実顔 本井 英
秋耕の一鍬ごとに土香り 岸釣の釣るれば妻の駆け寄れる おしろいは実を零したり萼残り 待ちまうけをれば尾花に風いたる 泥まみれなるものも朴落葉かな
女郎蜘蛛夫は無実顔にをり 客寄せのコスモス畑頃を過ぎ スルタンの宝珠のやうや藪茗荷 鵙はひかへめ画眉鳥聴こえよがしに トンネルの中ほど高し秋の風
浜砂に消ゆる小流れ暮の秋 街の秋潮路橋とは良き名もて 秋風に船首いかめしタグボート 万両五六亭々といふ姿にも 白マスク黒マスクはた顎マスク
煽つたび陽射し掬ひて芭蕉葉は 句碑そこに建つがたのしみ小鳥来る 緋毛氈の緋に新旧や秋日和 咲きつれて茶の花姸を競ふなく 茶の花や不平不満の蕊を吐き
主宰近詠(2021年1月号)
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