湖の秋 本井英
仙人掌のやうに顕てるも雲の峰 枝移るときの羽色油蟬 川蜻蛉かなもつれてはいこひては なつかしの蚊帳吊草の茎の稜 花茄子のたいらの花の下向きに
にがうりと呼びて黄色く熟れさせて 枝豆を畦に面白半分に 根の生えしごとく夏山揺るがざる 夏川の痩せて浅きやもくづがに その女の座したれば佳き緑蔭に
雪渓のひとかけこびりつく富岳 茶畑へ大水撒きをしてをりぬ 単線や臭木の丘にさしかかり 稲田道三方原をひた目ざし サイクリングロードを歩く湖の秋
湖浪のたためる音と鉦叩と 素麺流しの割竹の乾きをり 立ち止まるたび秋風に抱かるる 一輛車あらは夏川渡るとき 半周を車窓に座しぬ湖の秋