花野にあり 本井 英
片陰に踏み込めば風流れをり 法師蟬の声調にある折り返し 青ければ青を誇りて金鈴子 藻の花や養鱒場に棲む家族 見えてゐて小鯊ぞすばしこかりける
鮠涼し流れてはまた遡り 作り滝聞いてをるなり訃音胸に すでにして地啼にもどり露葎 生きてゐるだけで御 の字この花野 乱雑にして虎杖の花盛り石ノ湯稽古会 十五句
日が射せば木道秋のぬくもりに 竜胆の想ひ出どれも我若き 懸巣かしまし枝うつり樹をうつり 餌を追うて岩魚が走り下るとき 花野囲みて熊・羚羊の棲める森
岩魚沢とは水落とし水落とし 花野にあり葬 に参じ得ぬままに 羚羊の声のヒューンと露けしや 熊笹は硯のごとく露を溜め 水澄めば朱 を帯びたり鮠の鰭
主宰近詠(2019年11月号)
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