井戸はまだ生かしてありぬ柿青し  児玉和子

 季題は「青柿」、もちろん全く食べられないが、盛んに茂る葉の間にあって、つぶつぶと肥えてゆく様子はなんとなく頼もしい。そんな垣内の一角に古くからの井戸があるのである。近年は水道の普及で普段は使うことはないが、それでも万が一の時のために、何年に一度かは職人を頼んで、ちゃんと「井戸替え」をして、井戸を「生かして」あるのである。井筒にはちゃんと蔽いがしてあって、かつては釣瓶であったものが、今は鉄の柄のポンプになっている。

 いかにも何世代も住まっている邸の片隅の様子が生き生きと描かれている。秋ともなればたわわに実った「柿」を採ろうと、その家の子供や友達たちが竹竿を持って集まる。この場所では、そんなことが何十年も繰り返されているのである。(本井 英)

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