背は背腹は腹 本井 英
藻刈舟足の踏み場も無くなりし 藻を刈るや江戸に通じてゐし頃も 春蟬のにはかに近し女松原 松蟬を瞑り聴けば身ぞ浮かぶ 木斛は和庭の主つぼみ多
碧々と十尋を湛へ鯵の潮 追ひ喰ひの魚信楽しや鯵の竿 目玉白く煮鯵の汁に沈みたる 螢もう出ましたと茶園の主 螢狩谷ふかければ闇さらに
夏の柳に軽き風重き風 くぐりたる茅の輪の影はほぼ真下 空梅雨に巫女らけらけら楽しさう 釣堀やにこりともせず釣りあげし 梅天の明るくなればすぐに蒸す
蛇の衣なが〳〵背は背腹は腹 気動車の匂ひたのもし野は茂り 鯉の緋の滲みて消えて梅雨の川 半夏生の白ひろごるは病むごとし 河骨の蕾こつんと葉の真裏