主宰近詠(2016年9月)


背は背腹は腹  本井 英

藻刈舟足の踏み場も無くなりし

藻を刈るや江戸に通じてゐし頃も

春蟬のにはかに近し女松原

松蟬を瞑り聴けば身ぞ浮かぶ

木斛は和庭の主つぼみ(サワ)



碧々と十尋を湛へ鯵の潮

追ひ喰ひの魚信楽しや鯵の竿

目玉白く煮鯵の汁に沈みたる

螢もう出ましたと茶園の主

螢狩谷ふかければ闇さらに



夏の柳に軽き風重き風

くぐりたる茅の輪の影はほぼ真下

空梅雨に巫女らけらけら楽しさう

釣堀やにこりともせず釣りあげし

梅天の明るくなればすぐに蒸す



蛇の衣なが〳〵背は背腹は腹

気動車の匂ひたのもし野は茂り

鯉の緋の滲みて消えて梅雨の川

半夏生の白ひろごるは病むごとし

河骨の蕾こつんと葉の真裏