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祐之 について

「夏潮」運営委員の杉原です。 平成二十二年四月に第一句集『先つぽへ』を出版

『ラウンドアバウト』を読んで(矢沢六平)

『ラウンドアバウト』を読んで       矢沢六平

 

 届いた句集を読み了えて、付箋の付いた句を数えてみたところ、旅の句が多いことに気が付きました。句集名となった句もその中にありました。

 まずはそれらを、掲載順に書き写してみます。

 

 秋燕に出会ひし旅の終りかな

 春寒し唐招提寺に人の無く

 始発待つ春ストーブに二三人

 新涼の谷間の宿へ着きにけり

 秋高し火山情報出てをりぬ

 山門を閉ぢて静かに春の暮

 ポケットに帰りの切符春の旅

 岬へと丘巡るバス秋暑し

 初秋のブルートレイン出発す

 早朝のラウンドアバウト旅の秋

 手を頬に弥勒菩薩や春を待つ

 春めきて笑ふ地蔵に出会ひたる

 花の雨ガイドは傘をささずをり

 焼菓子のありてロッジの窓の秋

 缶みかん供へてありて地蔵盆

 小春日や発掘調査捗りて

 國栖奏の歌終わるとき鳥の声

 

 大学で仏教美術か何かを専攻したお嬢さんなのかな。そんな人物像を思い描きそうになりますが、そうは単純には、問屋は卸してくれません。

 やはり、ラウンドアバウト、が油断なりませんでした。

 早朝のラウンドアバウト旅の秋 美穂

 

 ラウンドアバウトの意味をとっとと調べればよかったのですが、変わったタイトルの句集だなあと思いながら読み進みこの句に出会い、さて句意が分からない。

 早朝、とあるから咄嗟に思い浮かべたのが、ゴルフの早朝ラウンド。アバウトは、若者言葉の「適当・テキトー」の意か。

 旅先でふと思い立ってゴルフをやりました。早朝でした。スコアにこだわらず大らかにプレイしたのが楽しかったです。

 

 うーむ。何かがおかしい…。

 そこでようやくラウンドアバウトの意味を調べ、分かりました。

 これは、信号機のない、ロータリー形式の交差点のことなんですね。ヨーロッパによくある、慣れないうちはタイミングが合わず何時までも出られずにグルグル回ってしまう、ニューカマー泣かせのアレですね。

 

 朝まだきのラウンドアバウト。車も人もほとんど通っていない。今、私は秋の旅の途次にある。

 

 悪くないです。

 でも、なんで句集名なんだろう。『蜜柑』(後述)ではなく、ラウンドアバウトを採ったのは何故なのか。

 ラウンドアバウトに込めた作者の想いは何? 今回、その答えに行き着くことはできませんでしたので、来年また読み返して、ぜひともその真相に迫りたいと思います。

 

 硝子戸の内いっぱいに冬日和 美穂

 しつらへて客を待つ間の小春かな 美穂

 まだ日ざし届かぬ庭の残り雪 美穂

 

 これらの句に感じ入ったのは、作者の女性性の為である。作者は、「家」や「室内」と一体化している。これは、男にはない、女性性なんだと思う。

 冬ぬくし日当りよくて手狭くて 高濱虚子

 虚子のこの句は、自宅を詠んだものなのだろうが、招かれた家の様子を詠んだものだと解釈してもかまわないと思う。「家」と「自分」がそれぞれ客観化されて、別の存在になっている(分かり難い書き方しかできず申し訳ないです)のだ。

 一方、美穂さんの句は、もっと「家」に寄り添っていて、自分と家の「区別」がないとさえ言える。これは、絶対に男にはない感覚で、また一つ、僕ら男に「女の秘密」を公開してくれた。

 

 ある種の「心の手触り」に、じっと心の耳を澄ませた句もあった。よく伝わってくる佳吟である。

 吐く息の白く暫くとどまれり 美穂

 どんぐりを握ってをれば暖かし 美穂

 ぼってりと革手袋の置かれある 美穂

 

 季題を「研究」するのも句作の楽しみの一つかもしれません。そのお手本のようだと思った句がありました。

 ブレーキの音の響いて賀状来る 美穂

 賑ひて二日の中華料理店 美穂

 

 物事の道理を説いただけなのですが、それがしみじみとした味わいとなる句。たとえば、生きかはり死にかはりして打つ田かな(作者失念)

 美穂さんのこの句に、僕はそれを感じました。

 雪として地に降り水に還りたる 美穂

 

 そして、いよいよ「蜜柑」句です。

 蜜柑蜜柑と声出しながら蜜柑剥く 美穂

 

 この句を句集名にしてほしかったのは、僕だけではないのでは? 句集を読んだ全員が、きっとこの句が大好きなはずです。

 たった今散りたる花を拾ひたる 美穂

 これも、同じように好きです。

 

 なんだか、「親戚中で一番可愛がっている姪っ子が久しぶりに家に遊びにきた。幼女から少女になって…」みたいな、胸キュンな感想を抱いてしまいます。違いますか、みなさん?

 昔みたいにチュ〜してあげるから、叔父さんのお膝においで(と僕)。ギャー、気持ち悪い、ヤだよ〜(と逃げ回る姪)。てな妄想を、読後に致しました。

 僕達に幸せな読後感を残してくれる名句ですね。

 読ませてくれて、ほんとにありがとう!

 

 最後にもう一句。

 橋渡る人の影ゆく冬の水 美穂

 このところ古句に興味がある僕には、大変心惹かれる句でありました。簡潔にして格調があると思います。

 

「夏潮 第零句集シリーズ Vol.6」 石本美穂『ラウンドアバウト』

「夏潮 第零句集シリーズ Vol.6」 石本美穂『ラウンドアバウト』

 「夏潮第零句集シリーズ」。第6号は石本美穂さん。

美穂さんは、昭和四十一年生れ。昭和六十年に慶應義塾大学俳句研究会に入会し、本井英に師事。現在編集委員として原稿依頼などを担当して頂き、毎月の「夏潮」の発行に欠かせない一人である。

句集名の「ラウンドアバウト」は、環状交差点のことで、「回り道」の意味もある。「早朝のラウンドアバウト旅の秋 美穂」と言う一句が集中に収められている。

大学卒業後、就職、ご結婚を経て一時俳句から遠ざかった時期もあったと思量するが、現在は俳句と季題がしっかりと生活の一部になっていらっしゃるであろうことが、この句集を読んで理解できる。

美穂さんの俳句はとにかく「素直」。奇を衒ったり派手な言葉を使うのではなく、ご自分が見られたこと、感じられた事柄を素直に詠っている。その結果、読者の心深くに美穂さんの俳句が染み渡っていく。俳句は饒舌より寡黙な文学である。

 

気になる点は、詠まれている季題が少なく「小春」のように百句の中に何句も続けて出てきてしまっている点であろう。忙しい日常の中で、俳句モードになれる時間が限られているとは思うが、句の幅、美穂さんの優しくも鋭い感性を活かすためにも、作家として意識的に句の幅を広げて頂きたい。

 

二日には二日の人出ありにけり 美穂

 季題は「二日」。正月二日のことである。この句は何も言っていない。しかし、その前後に大晦日、元日、三日、御用始など、毎日が季題となる得意な「ハレ」の日々の様子が浮んでくる。

二日には二日の特徴がある。スポーツの世界では、二日にはラグビーの大学選手権準決勝や、箱根駅伝は往路が開催される。元日のサッカー天皇杯決勝や三日の箱根駅伝復路とも違う、雰囲気である。

 そのような「二日」に作者は町に出た。思いのほかの人出があった。その人出は正月の雰囲気を持った人と既に「ケ」に戻りつつある人がいたのだろう。何もいわずに世界を広がっていく佳句。

 

海女道具整へてをる男かな 美穂

 美穂さんは「夏潮」創刊に前後するように、ご主人の転勤に伴い奈良へ数年間御住まいになられていた。それを機に、より俳句に本格的に取り組まれることとなった。この句は、奈良に御住まいの頃、福岡の藤永さんと下名と三名で伊勢志摩を吟行したときの収穫の一句だろう。

 季題は「海女」。句意は一読明瞭。面白さは下五の「男かな」という、切れ字の使い方。

これだけで、強い「妻」と頼りない「夫」の暮らしが見えてくる。それを「哀れ」とも思わず、淡々と妻の海女道具を準備している「男」。その風景をしっかりと描写することで普遍的広がりのある一句に仕上がった。

 

 

『ラウンドアバウト』抄 (杉原祐之選)

ぴんと張り糊の匂ひのうちはかな

どんぐりを握つてをれば暖かし

蜜柑々々と声出しながら蜜柑剥く

天気図は西高東低毛糸編む

賑はひて二日の中華料理店

手を頬に弥勒菩薩や春を待つ

春潮の引きたる浜の砂固く

鹿どちの尻の並びて草青む

ドロップを散らせる如く秋桜

ぼつてりと革手袋の置かれある

 

 

(杉原祐之 記)


関係ブログ

俳諧師前北かおる

http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/blog-entry-818.html

『ラウンドアバウト』 石本美穂第零句集を読む (泰三)

 

 


石本美穂さんへインタビューしました。

石本美穂さん

Q:100句の内、ご自分にとって渾身の一句
A:御影堂の屋根は緩やか春浅し
Q:100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。
A:もっと句会に出ること、に尽きます。
Q:100句まとめた感想を一句で。
A:早春の風はたしかに香りけり

 

 

明日は新年会

明日はいよいよ新年会です。

句会は

13時受付開始

14時〆雑詠5句。

宴会は、

17時受付開始、17時30分~写真撮影となります。

閉会は19時30分の予定。多くの皆様のお越しをお待ちしております。

佳田翡翠句集 『木挽町』 角川書店_(杉原)

佳田翡翠さんの第二句集。氏は昭和二十年岡山県生まれ。「ホトドギス」「松の花」に所属。「木挽町」30句で平成二十二年日本伝統俳句協会賞を受賞。日本伝統俳句協会千葉部会の会長を勤められた。

日本伝統俳句協会で活躍されているらしい、肩の力を張ることの無い自然な詠いっぷりが句集を読み進めていくにあたり心地よい。純粋な写生句にも結構な句は多くあるが、写生を通じて情が零れてくるような句の方により興味を持った。

句集中には旅吟や芝居を題材とした固有名詞を用いた句が目に付いた。これらについては、省略した方がよいと思われる句が散見された。固有名詞を強調し過ぎることで、本来花鳥諷詠で持つべき「季題」に対する愛情、興味が薄れてしまっているような感じがし、損をしているように思えた。

 

佳田翡翠『木挽町』

・菜の花の上に海その上に空 翡翠

 季題は「菜の花」。菜の花が咲く頃のまだ冷たくどんよりとした海と空の様子が良く分る。一番下にある菜の花の色だけが妙に明るい。

 句集の中で数少ない句跨りの句だが、リズムが俳句の内容を表すのに効果的な役割を果たしている。

 

・どこまでも富士ついてくる枯木山 翡翠

季題は「枯木山」。枯木山を登ってみたところ、富士がくっきり見えている。その枯木の山の尾根を歩きつつ振り返り見るとしっかり富士がそこに見えている。富士はすっかり雪富士になっているのだろう。その富士がいつまでたっても同じ大きさで見えている。それを中七のように詠みあげた。富士に見守られているような不思議な感覚で、山道を進んでいく。実感が良く伝わる一句。

 

以下、その他印をつけた句を各章毎に紹介する。

 

「木挽町」より

新橋の妓もちらほらと小正月

幕間の桟敷へ届く鰻飯

 

「新年」より

龍の字の動きだしたる吉書かな

勝ち独楽のぐらりと揺れて止まりけり

 

「春」より

くちびるにふふめば甘し春の雨

西行庵まで春泥の谷づたひ

三陸の海そこにある春の闇

宮城野のなゐの大地に芽ぐむもの

ふらここや昨日の雨をふりこぼし

 

「夏」より

今年またマッカーサーのサングラス

雑魚舟のもどつて来たる梅雨の岸

夏袴都大路を渡るかな

白服にナイルの風をはらませて

 

「秋」より

階下より夫の声する十三夜

徒で越ゆ峠の茶屋のぬかご飯

街角の回転木馬小鳥来る

韃靼の地平に沈む秋夕日

秋風や哈爾浜(ハルビン)と呟いてみる

ふるさとは高志(こし)のまほろば銀河濃し

 

「冬」より

本殿の大屋根高し節分会

 

(杉原 祐之記)

俳諧師前北かおる

http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/blog-entry-786.html

 

紀伊国屋書店HP

https://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/search.cgi?skey=1&AUTHOR=%89%C0%93%63%E3%C5%90%89