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片づけの手際よきこと里祭  矢沢六平

 季題は「里祭」、「秋祭」、「村祭」とも呼び、秋の季題である。「祭」が夏のもの、都会のものであるのに対して言う。村の顔見知りだけで執り行い、祭客とて大して集まるわけでもないものではあるが、それなりのクライマックスはあって、神輿の渡御なども無事終了。その後は粛々と各員「持ち場」を「片付け」て行く。その行動がまことに「手際」がよく、あっと言う間に「祭」以前の状態に復していったというのである。各地の「夏祭」の多くが観光という側面を意識したイベントになりつつあるのに好対照をなしていることに気づいた一句である。都会で育ち、現代そのものを生きてきた作者が、一転、地方の生活に身を委ねて年月を過ごし、至りついた知恵が見つけてくれた「一場面」であったと言えよう。(本井 英)

主宰近詠(2024年2月号)

忘れめや    本井 英
     

鴛鴦の夫置いて水面は砥の如し

瑠璃と仰ぎ玻璃と見下ろし雨氷かな

枯木山なる妻の墓母の墓

ビル影に入ればひいやり冬麗

錨泊の黒船のごと浮寝かな

曳波にいちいち応へ浮寝鳥        

コンビニの入口に売る大根かな

冬帝の遣はしめなるはたた神

冬帝の蹴散らし止まぬ波濤かな

葛襖ずたずたに枯れわたりたる

ほろほろと落葉だまりに尿そそぐ

沖風にアロエの花の震へ止まず

権五郎神社暫く日向ぼこ

息白く開園前の飼育員

猫砂を買ひ足すことも年用意

ヘリの飛ぶ低さも年の瀬のことと

数へ日の鴫立庵の昨日今日

銀杏落葉微塵にカレー粉のやうに

朴落葉八割ほどはうつ伏せに

忘れめや声失ひし今年のこと

課題句(2024年1月号)

人日の机ひろびろありにけり		天明さえ
人日の畑へ少しの菜と草を

人日の朝に重たきニュースかな		釜田眞吾
人の日となりて曜日を確かめぬ		原 昇平
人日や子も孫達も恙無く		牧野伴枝
人の日や粥に玉子の一人居の		羽重田民江

雑詠(2024年1月号)

妻逝きて物音しない夜長かな		田中金太郎
芒野や疾く過ぎゆける雲の影
金太郎飴も売られて菊まつり
ビルの灯の上にしづかにけふの月

遊園地消えてどりこの坂の秋		釜田眞吾
病む人に夜は長しよ茶立虫		山内裕子
水澄むや夢に終はりし一人旅		牧原 秋
くつきりとキレツト切処見ゆる秋の晴	武居玲子