お海苔ぱりぱり 本井 英 山麓の風大切の飼屋かな 掃立の毛蚕くろぐろと可愛らし 掌に重さとてある蚕かな 鬱勃と村中にあり桑畑 亡き妻が植ゑけん薔薇なほ紅き ねずみ取りなど売り黴の荒物屋 蘖のゆたの緑の銀杏かな 竿先をきゆんと引き込み鱚ならめ 鱚釣に穴子が釣れてひと騒ぎ 大鱚のうす桃色にくねるとき
船頭もときどき鱚の絲垂れて 散り溜まりつつ芍薬のなほ白し 散り尽くしたる芍薬を掃きもせず 龍鱗を這ふ青蔦の途なかば 薄暑また佳し旧邸の公開日 籐椅子をゆつたりと置く畳かな 熊蜂のぶら下がる零れては翔ぶ おむすびのお海苔ぱりぱり雲は夏 軽暖や老いの膚へに心地よく 蘆端正に蒲は屈託なく茂り