ひたすらひとつ 本井 英
大銀杏無きに馴れたる初御空 年酒酌む九十の義母のいける口 食積へ年めされたる箸のさき 福詣弁天さまはお軸にて 汁粉屋につき合ふことも福詣
湯どころの山ふところの初薬師 祈ぎごとはひたすらひとつ初薬師 富士塚の日裏あたりの氷柱かな 護摩太鼓とほく始まり日向ぼこ ボロ市に買うて被りて冬帽子
ボロ市や奉公袋手にぞとる ボロ市を出はづれて肩寒きこと ボロ市を素見してより梅探る 鎌倉や小路の奥に山眠り 涸れ川を糾ふやうに詣道
寒鯉の鱗一枚づつの紺 梅が下絵馬記入所の椅子机 薄氷の縁のあたりの揺るるかな 薄氷にして細波を拒みをり 落椿岩根はざまをなす処
投稿者「管理人」のアーカイブ
「夏潮」表紙が新しくなりました。
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管理人です。「汐まねき」以外の更新が遅れがちで申し訳ありません。
さて、「夏潮」(主宰:本井英)は2007年8月発刊なので、毎年8月に巻が改まります。
今年も巻が改まり(第八巻)、表紙も新しくなりました。「アズーロ(空の青)」。日本画家の清水操先生がベネツィアの街角でご覧になった景とのことです。
課題句(2014年3月号)
「椿」 前田なな選 まだ水の通ふばかりに落椿 園部光代 桃色の乙女椿も飽きて来し 島人は昔語らず赤椿 児玉和子 今は昔殉教の島紅椿 山口照男 竹筒の切り口清(サヤ)に玉椿 山口佳子 代々の島守らしや赤椿 梅岡礼子
鳰潜る水輪の盛り上がり 山内裕子(2014年4月号)
季題は「鳰」。「かいつぶり」とも「にほどり」・「にほ」とも呼ぶので、音数的には割合苦労の少ない季題と言えるかも知れない。日本の中部地帯以南では留鳥として一年中見かけるし、「浮巣」、「鳰の子」などが夏の季題として歳時記類に登録されているのに、「鳰」だけだと冬の季題とされるところは、あまり科学的ではないような感じもある。しかし他の鴨や鴛鴦と一緒に冬の池面に浮かんでいると、なんとなく冬の趣を感じてしまうから不思議だ。
「鳰」は何といっても長時間潜水できるところにその特徴があり、その潜る時の様子や、浮かび出た時の表情は俳人の心を捉えて止まない。掲出句もその「潜る」瞬間を高速度写真の一コマの様に見据えての吟。「鳰」の姿が水中に没した際、その周辺にリング状に「水輪」が盛り上がった瞬間の形を見逃さなかった。「盛り上がり」と連用形で止めてあることから、次に起こるべきさまざまの「景」が読者の脳裏に想起される。輪の中心部から連鎖的に広がる「水輪」、その「水輪」が沈静した水面、さらにやや離れた水面に再び浮き上がるであろう「鳰」まで。何十回も「鳰」に見とれた俳人を読者として想定している。 (本井 英)
雑詠(2014年3月号)
ほぐれ長けほぐれ広ごり牡丹の芽 藤永貴之 焼山と焼かざる山と一つ闇 紅梅や日差せば急にあたゝかく 丑寅の隅や枳殼こゝだ咲く 横井戸を今に蔵して山眠る 飯田美恵子 小学生菊の手入れをひざまづき 原田淳子 綿虫と言ひて指さす空を指す 児玉和子 箱書に壬申(ミヅノエサル)や雛飾る 櫻井茂之