初雪の頃一つ目の歯の見えて 前北麻里子(2015年6月号)

 季題は「初雪」。その冬初めて降る雪である。「一つ目の歯」は乳児に生える「乳歯」。およそ生後半年くらいから歯茎にそれらしい兆候が見え、前歯がプチッと白く現れる。その待ち望んだ「歯」が真っ白に生えた頃、ちょうど「初雪」が降ったのである。草田男に〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉の名吟があるが、それとは違った清潔感のようなものが、この句には漂っている。それは季題「万緑」と「初雪」の違いである。初雪を窓に見ながら暖かい部屋で育つ、乳児とその母の服装やようすまでも想像される。(本井 英)