「夏潮第零句集シリーズ」。第3号は永田泰三さん。
泰三さんは、昭和四十九年福岡県生。高校時代、藤永貴之さんと同級生。その後大学進学後、藤永さんを通じて俳句と出会う。慶大俳句のイベントにも参加いただいていた。
「夏潮」創刊に参加し、本格的に本井英に師事。同じ頃、茨城から千葉県の学校に転勤。その際、八千代に戻ってきた前北かおるさんと近所付き合いが始まり、そのまま「八千代句会」を創立。「八千代句会」「mixi句会」などで毎週のように句会に参加されている。
また、藤永さんとも「スカイプ」を駆使して句会をされているようで、その鍛錬振りが伺える今回の句群である。
『一歩』を読んで泰三さんの四つの特徴が表れていると思った。
1.「博多っ子」としての泰三さん
泰三さんは典型的な九州男児である。焼酎に限らず酒類を手にしたら容易に離さない。普段の一歩謙虚な姿勢が打って変わって豪儀な男に変身する。
大空に止め撥ね払ひ秋の雲 泰三
2.「教師」としての泰三さん
泰三さんは、高等学校の先生である。プロテスタントの学校で宗教を教えていらっしゃる。生徒に対する慈愛の心が溢れており、健康的な詠みっぷりが心地よい。
夏服の少女の手足もてあます 泰三
3.「牧師」としての泰三さん
泰三さんはプロテスタントの牧師である。教会に属しており、毎週日曜日お勤めを果たされている。また私事になるが下名の結婚式を執り行って頂いた。
そんな泰三さんの句は、写生句の中に自ずから宗教家としての気分が反映されている。
特に「耕し」「田植」など農耕に関する句が多いが、それらの句の中には「人々の営みと見えざる力」の緊張関係を描かれているように思う。
地の力信じて秋の畑打つ 泰三
4.「父」としての泰三さん
泰三さんは2児の父親である。子煩悩な父親として家庭で見せる笑顔は大変素敵である。
父と子のままごと遊び秋の暮 泰三
永田泰三さんは常に「夏潮」雑詠の上位を飾っているように、大変堅実な写生句を残す。その為、今回の100句の中にもモチーフとして大変近寄った句が散見された。
今後は、上記の4つの特徴を活かした句を詠み進めて頂くと共に、「武田騎馬軍団の如紅葉燃ゆ」のような俳句にもチャレンジして頂き、泰三俳句の幅を広げて、第一句集にて提示いただければと思う。もしかすると句集のタイトルとして取った「雪楽し一歩一歩を踏みしめて」の句は泰三さんらしからぬ、緊張をしていない緩まった句と思ったが、今後のご本人の進む道を示唆されているのかもしれない。
『一歩』抄 (杉原祐之選)
日脚伸ぶ頃に生まれて来てくれて
切株に腰かけて春待てるかな
駅を出てそれぞれ家へ春の月
体操着着て休日の田植かな
だまされてをるかも知れず西瓜買ふ
背伸びして妻風鈴を吊つてをり
目を凝らし耳を澄まして蚊を追へる
雨音を聞いてをるなり蟻地獄
莢押して枝豆口に飛ばすかな
雪楽し一歩一歩を踏みしめて
(杉原祐之 記)
関係ブログ
俳諧師前北かおる http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/blog-entry-726.html
永田泰三さんにインタビューしました。
永田泰三さんとのQ&A
Q1:100句の内、ご自分にとって渾身の一句
A1:春泥をつんのめりつつ歩むかな
なんともあほらしくて自分では気に入っています。
Q2:100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。
A2:出不精を改めて、どんどん外へ出て行きたいと思います。
Q3:100句まとめた感想を一句で。
A3:をちこちを向きて柘榴の膨らめる