屋根の上から霧落ちてきたるかな 小沢藪柑子(2014年12月号)

 季題は「霧」。「屋根の上」から「落ちて」くる「霧」とは、やや特殊な状況を考える必要のある句である。つまりは「山」。町中ではあまり経験しないが、「高地」、たとえば標高が一千メートルを超えるような山間では、こうした恐ろしいような「霧」に見舞われることがしばしばある。

 夕刻の山小屋の窓。随分と霧が込めてきたと、窓を開けてみたのであろう。すると、真上から落ちてくるように「霧」の塊が降って来た。窓から身を乗り出して仰ぐと、軒の上の「屋根」から、つぎつぎに「霧の塊」は落ちて来る。そんな少し恐ろしいような山の天候を静かに描写している。〈方丈の大庇より春の蝶 素十〉という句が、ふっと思い出される。 (本井 英)