浮苗の田植機追うて流れける 青木百舌鳥(2014年10月号)

 季題は「田植」である。「田植機」は現代の田植えでは欠かせない機械。初期は手で押しながら四条ほどを植えていたようであるが、現今ではトラクター式の大型機で、八条とか十条を一気に植えていく。詳しいことは判らないが田面への田植機の沈み方は以前より深い感じで、ある程度の水深の中に田植えが行われていくようにも見える。

 そこで掲出句のような場面が眼前でなされたのである。「カッチャ、カッチャ」とストロークして植えていく中で、一つの早苗が着床できずに、田水に浮き上がってしまった。その早苗はどうなるかと見ていると、進む「田植機」の後部に生まれた水流に乗って、「田植機」を追うように流れた、というのである。

 まことに落ち着いた観察と、その観察の結果を的確に伝える措辞によって、読者を田植えの現場に拉致するほどの力強い写生句となった。ともかく早く一句にしてしまおう、などという「ぞんざい」な気持ちは微塵もなく、どこまでも、「その場面」を正確に伝えたいという誠実が一句に満ちている。この句を見た瞬間、私は小躍りして喜んだ。そして虚子に見せたいと思った。虚子も必ず選ぶと思った。ただし虚子が現代の「田植機」を知っていたなら。 (本井 英)