孝さんも零さんも 本井 英
碧空に松蟬の沁みわたりゆく 北国の玉葱どきの夕日かな ほつぺたの瘦せてをるなる百合蕾 くちなはに喰はるる番のめぐり来し 揚々と鳶くちなはをぶらさげて
木道が一枚剝がれ蛭蓆 栗の花散り加はりて這ひ出しさう 烈風に吸ひ込まれたり栗の花 差し金をはづれ梅雨蝶高く〳〵 よろしくと囮鮎にも声かけて
鮎釣つて体冷やして戻りきし 電柱が村の入り口金魚草 孝さんも零さんも亡き時鳥 チーズてふ声の明るし梅雨晴間 萱草の花の衿元あぶらむし
十薬の四片は落ちて塔ばかり 夏潮にお襁褓がとれて浸りをり ついでなる茅の輪くぐりも海の客 ふり返り見たる茅の輪のややいびつ 虫籠に棲むや一肢を欠いたまま