主宰近詠(2013年9月号)


孝さんも零さんも  本井 英

      
碧空に松蟬の沁みわたりゆく

北国の玉葱どきの夕日かな

ほつぺたの瘦せてをるなる百合蕾

くちなはに喰はるる番のめぐり来し

揚々と鳶くちなはをぶらさげて



木道が一枚剝がれ蛭蓆

栗の花散り加はりて這ひ出しさう

烈風に吸ひ込まれたり栗の花

差し金をはづれ梅雨蝶高く〳〵

よろしくと囮鮎にも声かけて



鮎釣つて体冷やして戻りきし

電柱が村の入り口金魚草

孝さんも零さんも亡き時鳥

チーズてふ声の明るし梅雨晴間

萱草の花の衿元あぶらむし



十薬の四片は落ちて塔ばかり

夏潮にお襁褓がとれて浸りをり

ついでなる茅の輪くぐりも海の客

ふり返り見たる茅の輪のややいびつ

虫籠に棲むや一肢を欠いたまま