「夏潮 第零句集シリーズ 第2巻 Vol.1」三田たから『一月七日』~透明感~
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今月から「夏潮第零句集シリーズ」は第2巻に入った。
三田たからさんは昭和四十八年東京都生まれ。句集のタイトルの『一月七日』はご自身の誕生日から名づけられた模様。
慶応義塾志木高校の国語の授業でもと本井英と出会いそのまま師事。慶應義塾大学俳句研究会では長年にわたり後輩を指導、俳句だけでなくその後の酒席の嗜み方などを指導されてきた。
俳句はその風貌から想像できないくらい繊細かつ、衒いのない無理をさせない言葉づかいで句をまとめられている。俳句を通じて評価される/されないということとは無縁の、実に透明感のある句群であり、俳句を人生の一嗜み、楽しみとして付合われていることが良く分かる。
題材は、石の湯ロッジが舞台である句に固まっているが、100句の範囲でもありそれほど気にならなかった。今後第一句集へ向けて、いろいろな場面の俳句を見せて頂きたい。
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木道を白く残して花野かな たから
→季題は「花野」。高原の夏は短く既に風は秋の気配が漂っている。そして、草花も色つきだしている。その中で木道の表面が白かったというのが面白い。実際に白いということもあるが、作者に城に見せさせた何かがあるのではないか。心象的な景も詠まれているようで面白かった。
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尻見せてツムリを見せてトマト浮く たから
→季題は「トマト」。たからさんは、老舗料理屋の家に生まれたこともあり、料理の名人であるが意外なほど百句のうちに食べ物をテーマとした句が少なかった。
この句はトマトの様子を丁寧に写生している。トマトには水気が多いので、水に浮くときもプカプカと浮かぶ。そして水に入れる時の力具合であるものは上向きに、あるものは下向きに浮かんでいる。それを「尻」、「ツムリ」と捉えた。いかにも健康そうなトマトの様子が目に浮かぶ一句。
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戻りくる人口々に萩のこと
春うららみんな中国語に聞こゆ
ハンモック天を指したる足の指
赤とんぼ風に尻向け止まりけり
風呂吹きや味噌の手柄と申さばや
竜胆の固く黙して色濃ゆし
弁当に名札のありし避暑の宿
雪上車片傾ぎして谷降りる
踏面の小さき石段落ち椿
あれほどの蛍眠りて沢の朝
幾百のマーガレットの波打てり
(杉原 祐之記)
以下、9月23日インタビューを追記します。
Q:100句の内、ご自分にとって渾身の一句
→七草の何やらまとひ粥柱
Q:100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。
→100句を100回まとめて1万句とする。
Q:100句まとめた感想を一句で。
→ これよりは俳人となる月を見る
以上