主宰近詠(2012年9月号)


閑かのよけれ          本井英

けさも又けふの莟をあさざかな

自転車で麦藁帽でがに股で

ちぬ釣りのうしろに立ちて夕日見る

餌をねだる(ノミド)まつ赤や鴉の子

子鴉の猫のやうなる甘え啼き




空梅雨や月命日の花剪りて

訪ひてけふのついりの御泉水

岩煙草風がとどけば応へけり

五六十幹おほよそが今年竹

竹皮を長靴ほどを脱がずあり




さみだれの(シズ)かのよけれ鎖樋

虎尾草のこんな小虎のあらまほし

犬小屋はどれも妻入なめくじり

風呂桶と壁の細闇なめくじら

梅雨菌せせればほのと烟吐く




寺領ふかく棲みて在家や竹落葉

信号はいつも点滅ほととぎす

溝萩の花はやしとは去年も言ひし

深刻に話すや日傘傾げあひ

籐椅子をとなりに寄せて聞き上手