「夏潮 第零句集シリーズ Vol.9」 青木百舌鳥『鯛の鯛』~破壊力は収まってしまったのか?~
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「夏潮第零句集シリーズ」。第9号は青木百舌鳥さんの『鯛の鯛』。

百舌鳥さんは、昭和四十八年東京都生れ。慶應義塾志木高等学校在学中に本井英主宰と出会い、そのまま俳句の道に入り込んでしまったようだ。その後慶應義塾大学俳句研究会では代表を務め、「惜春」を経て「夏潮」に創刊参加。創刊以来、運営委員として、経理の御仕事をしてくださっている。
一時お仕事が忙しく句作を中断していたが、「夏潮」創刊と共に本格的に句会の道に復帰。現在では東京吟行会の幹事もしていただいている。
百舌鳥さんといえば、慶大俳句時代から数々の御酒と共に伝説を残された方で、その破壊力たるや絶大なものであった。その百舌鳥さんの俳句というのも、破壊力抜群で自身の感情を定型と季題に目一杯ぶつけるようなものが多かった。
実生活でも、単なるサラリーマンに収まることを嫌い色色な分野に打って出るなど、積極性が百舌鳥さんの持ち味である。一方でこの句集に釣の句が多いことで分るよう、冷静に好機を待つことも出来るのが百舌鳥さんである。
昨今では、主宰の前書きにある通り「他人に分る」よう抑制された俳句を心がけているようである。勿論、その中でも百舌鳥さんらしい句が沢山拝見できた。しかしながら、百舌鳥さんの本来の魅力である「破壊力抜群」の句群にも興味がある。是非「第一句集」を出される際は、そのような俳句も見せて頂きたい。
なお、句集名の「鯛の鯛」は、2012年1月号で巻頭を獲得された「ちぬ釣つて而して椀の鯛の鯛」に由来する。
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經世濟民朦朧として卒業す 百舌鳥
季題は「卒業」。この句は百舌鳥さんが勢いで詠まれた句ではないか。経済学部を卒業したが、その「経済」の「經世濟民」とは如何なる意味か、結局理解できないまま卒業した。このまま社会人として「経済活動」に携わることになる自分の未来に対しての不安と、「何とかなるか」という肯定的な心境の幅で揺れる心理が描けている。
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空負うて鵙ゐずまひを正しけり 百舌鳥
季題は「鵙」。鵙は百舌鳥です。その鵙が枝に立って餌を探しているところを詠んだのだろうか。確かに鵙は凛と立っている様に見える。「ゐずまひを正す」に鵙に対する愛情が籠められた一句。
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『鯛の鯛』抄 (杉原祐之選)
負馬の踵返して走りけり
恋猫の鳴きながら角まがりけり
平滑な風を得たりし蜻蛉かな
素魚のゐなりなりたる鉢の水
虎尾草のよき名もらひて曲がりたり
天球に流星の傷生れて消ゆ
防風を摘みし袋のもう蒸るる
あめんぼの底の影こそよく見ゆれ
逃げ落ちし豆鰺に幸あれかしと
箒目に早や山茶花の五六片
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青木百舌鳥さんにインタビューをしました。
Q:100句の内、ご自分にとって渾身の一句
A:「傍らに虫襲はせて蟻の道」
見えたものを見えたとおりに詠めたと思っている句です。
Q:)100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。
A:歳時記ある魚を釣り、食べ、詠みます。魚のほかも然り。
ちかごろは歳時記が食品リストに見えます。
Q:100句まとめた感想を一句で。
A:前屈し反りて人日空円か