カナダの俳句~有働亨『汐路』より(杉原)

カナダの俳句~有働亨『汐路』(琅玕洞、1970年4月)より

全く個人的理由により、暫くカナダでまとまって詠まれた俳句と言うのを探してみて、ご紹介してみたいと思います。

まず、webで検索して簡単に出てくるのが、有働亨氏の第一句集『汐路』。

有働亨氏は「馬酔木」同人。「馬酔木」の重鎮として活躍された俳人。

氏は五校(熊本)を経て、京大経済学部時代に、キャリア試験の合格し商務省(通産省、現・経産省)へ内定するも、学徒動員され、海軍で主計担当幹部として第二次世界大戦に従軍。

戦後東南アジアで捕虜となるが、その際英語が堪能であるため、指揮官役を務め、昭和二十五年に復員。

その後、通産省官僚として、昭和二十八年から三年間に渡り、カナダ大使館へ勤務された。

2010年6月に逝去。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E5%83%8D%E4%BA%A8

本句集『汐路』は、氏の第一句集で、昭和二十六年から、退官の昭和四十四年までの五百六十句余りが集録されている

(氏は、既に戦中から「馬酔木」の「新樹賞」の巻頭を飾るなど活躍をしていたが、本句集では全て削除されている)。

また、本句集は「琅玕洞」より出版されている。「琅玕洞」は慶大俳句の大事な先輩である、楠本憲吉が経営している出版社である。

有働亨句集『汐路』

さて、カナダで詠まれた句の中から幾つか紹介しよう。

●「昭和二十八年・二十九年」より

春星やとはの氷河を村の空

没日の後雪原海の色をなす

毛衣の男が鳴らす鍵の束

栗鼠の春並木の果に塔光り

大木を裂く寒さの中や月のぼる

よき眠りなりし雪積む二重窓

ツンドラはむなし真晝の霧匂ふ

爐に遠く凭れ合ひ寝の橇の犬

暮雪しづかに壁の刺繍絵古びたり

蒼天は吹雪のひまに移りをり

●「昭和三十年・三十一年」より

裏街はあまたの岐路の夕凍みつ

マロニエの葉蔭はふかし椅子一つ

吾子得たり街の氷柱が眩しくて

古りしバススキー百本積みて発つ

樺咲いて牧夫の村は四五戸のみ

あふれ咲くリラや村なす旧教徒

 

以上。氏の作品は気品がある。また、赴任の旅及び赴任当初は旅行者としての眼で句が詠まれているが、次第に生活者の眼と変わっている点が良く分る。特に、氏は長女をカナダで得ており、本句集名も長女のお名前に由来するものとのこと(「後記」より)。

何れにせよ、珍しいものを見たという気持ちの昂揚感を季題に如何に託せるか、定型の中で独りよがりにならないようどう落着けるか、よく考えさせる句集であった。他に詠まれた句も色色素敵な句があるので、機会があれば手にとってご覧頂きたい。

 

                       〆

 

 

 

 

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