主宰近詠(2011年11月号)


迎鐘        本井英

蝉の尿かなきらきらと降りかかり

絵日傘を五人男のやうに差し

御城下を横舐めしたる西日かな

黙祷の間も熊蝉のとめどなく

自転車を引いて列びて迎鐘




朝よりゆるまぬ日射し迎鐘

鳴りつづけて日は午にちかし迎鐘

南座を丸呑みしたる西日かな

長崎の日も朝より晴れわたり

我が生は名残の裏へ月も過ぎ




すれちがひざまの安香水なりき

葛の花安中榛名にまで停まり

下車したるサマージャケット軽井沢

沢水の縮みて伸びて澄めるかな

チュと舐めて我を吟味の山の蝿




蛇の尾のまこと細りて消えにけり

芋虫や頷くやうに葉を囓り

熊鈴のだんだん近し三十三才

ホスピスがなと言ひし人ありこの花野

老いぬれどをみなゆかしや月見草

青蘆を分けきて我をいだく風