迎鐘 本井英
蝉の尿かなきらきらと降りかかり
絵日傘を五人男のやうに差し
御城下を横舐めしたる西日かな
黙祷の間も熊蝉のとめどなく
自転車を引いて列びて迎鐘
朝よりゆるまぬ日射し迎鐘
鳴りつづけて日は午にちかし迎鐘
南座を丸呑みしたる西日かな
長崎の日も朝より晴れわたり
我が生は名残の裏へ月も過ぎ
すれちがひざまの安香水なりき
葛の花安中榛名にまで停まり
下車したるサマージャケット軽井沢
沢水の縮みて伸びて澄めるかな
ヽ と舐めて我を吟味の山の蝿
蛇の尾のまこと細りて消えにけり
芋虫や頷くやうに葉を囓り
熊鈴のだんだん近し三十三才
ホスピスがなと言ひし人ありこの花野
老いぬれどをみなゆかしや月見草
青蘆を分けきて我をいだく風