つまべに 本井 英 主亡き被爆者手帳原爆忌 熊蟬の声のただある原爆忌 あつ星が流れたといふ電話の声 足湯もう温かくなし星流る 海 図室灯火ひとつ星流れ 木曽十一宿夜毎の星の流れけり 滴りてをりしがひしと連なりし ポスターの小池ゆりこに滝の風 秋風へ木の香放ちて製材所 雄叫びの蟬ぢりぢりと焦げる蟬
青栗や片空は晴れわたりたる 裾ちかくちぎれ止まざる垂水かな 草刈機ときをりキンと弾く音 山はもう降つてをるべし花臭木 箱庭に置きたるやうに鮎を釣る 落花生の黄花がちらりちらり見え 目抜き通りや百日紅百日白 鐘楼のすんと鎮まり蟻地獄 町役場分室鳳仙花咲かせ つまべにや母がゐし叔母たちがゐし