季題は「磯遊」。「野遊」、「山遊」と並んで人気のある春の行楽である。「潮干狩」とはややことなるが、春の大潮は干満の差が大きいので殊に面白い。作者はまだ幼い子供を連れて、ここの磯場に来てみたのであろう。子供は夢中になって潮だまりを覗き込んだりしている。思いの外に磯で遊ぶ時間が長くなって、「子供」に帽子を被らせて来なかったことに気が付いた。春の磯の日ざしは存外強い。
そこで一心に潮だまりを覗き込んでいる幼子に「吾が帽子」を被せてやることとなったのである。一句の味わいどころは、大きな「大人の帽子」をまだまだ幼い「子供の頭」に被せた、不思議なアンバランス。それでいて一層、あるいはだからこそ、その可愛らしさが心に沁みるところ。「ことば」の遊びではなく、実景に裏打ちされているところが一句の強みである。(本井 英)