氷室への径 本井英
朝日注ぐほどに華やぎ谷若葉 氷室への径の踊子草のころ 雉子の声にはかに近し村はづれ 万緑になほまぎれざり雉子の赤 馳せちがふは軽トラばかり雉子の昼
塗り畦にはや走る罅美しき 代掻くや蓼科山を空の隅 代掻のタイヤの泥のきらきらす 狼藉のやうに子供ら田を植うる 田植にはまじらず捕虫網揮ふ
打ち捨てし谷戸茱萸が生り柿が咲き 磯茨と命けむかなや白く低く 風裏に咲きてやすらか磯茨十薬の丈の長けしも瀧近み 瀧風の果てに揺るるは鴨足草洒水の瀧 六句
沢音にかむさりそめし瀧の音 駆け下ることにたゆまず瀧の白 かさね鳴く河鹿に気脈ありにけり 真清水を掬し余命を祈るなり 卯の花やダム湖の景に馴染めざる