主宰近詠(2018年8月号)

氷室への径   本井英

朝日注ぐほどに華やぎ谷若葉

氷室への径の踊子草のころ

雉子の声にはかに近し村はづれ

万緑になほまぎれざり雉子の赤

馳せちがふは軽トラばかり雉子の昼




塗り畦にはや走る罅美しき

代掻くや蓼科山を空の隅

代掻のタイヤの泥のきらきらす

狼藉のやうに子供ら田を植うる

田植にはまじらず捕虫網揮ふ




打ち捨てし谷戸茱萸が生り柿が咲き

磯茨と命けむかなや白く低く

風裏に咲きてやすらか磯茨

洒水の瀧 六句

十薬の丈の長けしも瀧近み 瀧風の果てに揺るるは鴨足草




沢音にかむさりそめし瀧の音

駆け下ることにたゆまず瀧の白

かさね鳴く河鹿に気脈ありにけり

真清水を掬し余命を祈るなり

卯の花やダム湖の景に馴染めざる