北川あい沙句集『風鈴』角川マガジンズ
北川あい沙さんの第一句集、284句を収録。北川さんは1965年東京都生。30代半ばで俳句を初め、今井杏太郎に師事、「魚座」入会。「魚座」終刊後「雲」同人。現在は無所属。
2004年には、第7回「魚座」新人賞を受賞。
直接作者を知るわけではないが、如何にも師の今井杏太郎氏、同門の鴇田智哉氏の句風である、「薄薄」と「淡淡」とした雰囲気で、一句に広がり、含むを持たせ詩情を発揮することが巧みな方だと思った。
よって、類型的な言い回しの句も幾つかあった。「夏潮」でも如何にも上手いという句は、「含みのある」類型的な句であることが多い。そういう句を句会後の自選でどのように取り扱うか。結局句集として自分の句をまとめると言うことは、そういうことが大事なのであろう。
・朧夜の運河にかかる橋ふたつ あい沙
季題は「朧夜」。運河と言われるだけである雰囲気がある。そこに「朧」と意味ありげな「橋ふたつ」。余り思わせぶりな句はいやらしくなるが、この句は徹底して重ねることで読み手を共感させることに成功している。
分りやすく具象的な景を詠んでいることも、共感しやすい一因であろう。
・いちじくを煮る日の窓の広さかな あい沙
季題は「いちじく」。不思議な雰囲気を持つ句。台所で無花果を煮ている、ふと見上げると今日は窓が広く見えた。窓の外の樹木の葉っぱが落ちたかもしれない。秋の日射しが一杯栗谷に差し込んできている。
「いちじく」と言う季題が非常に効果的。晩秋の家や庭の様子が想像される。
●「春」
前髪を切る音クロッカスの咲き
長閑なる空に楕円の観覧車
本棚に置かれて花の種袋
薔薇の芽にゆふぐれの色ありにけり
草を摘み草の匂ひの帰り道
風船の消えゆく空の夕暮れて
●「夏」
美しき耳のやうなり海芋咲く
鴨の子の水に浮かんでゐる軽さ
銀紙の裏よ表よ梅雨に入る
日に焼けてからだに海のあとありぬ
風鈴の音色はきのうふよりはるか
●「秋」
馬追のみどりの色に飛びにけり
十六夜の山に大きな木のありぬ
秋晴の沖の明るい海のいろ
手に持ちて葡萄は雨の重さかな
長月のガラスのやうな海のいろ
●「冬」
小春日の海のにほひの町のなか
空よりも庭の明るい十二月
極月の川の向うに街のあり
寒鯉の池はうすむらさきに揺れ
冬の日のあたつてゐたる机かな
(杉原 祐之記)
