日別アーカイブ: 2017年12月2日

課題句(2017年12月号)

課題句 「短日」          藤永貴之 選

ロープウェイ下りて里曲の暮早し	岩本 桂子
みちのくの旅のはじめの暮早し

廃寺とて掃く人のあり日短		櫻井 茂之
短日の産土に来て祈る人		根岸美紀子
短日や句会戻りの夕支度		前田 なな
内灘まで来てみたりしが日短		本井  英

ででむしをつまみ地球と切り離す 磯田知巳

 季題は「ででむし」、「蝸牛(かたつむり)」の傍題である。「でんでん虫」とも呼び、さらに「でーろ」、「まいまい」、「みな」など方言が豊かなことでも知られ、柳田国男に有名な「蝸牛考」なる論文がある。この「ででむし」という呼び名は「出ろ出ろ」と蝸牛を囃して「角」を出させる「遊び」からの命名と言われる。「♪ヤリ出せ、ツノ出せ、アタマ出せ」である。

 作者もまた、この「ででむし」を見掛けて、大いに「遊び心」が発動したのであろう。ゆるりゆるりと石畳の辺りを移動していた「ででむし」を見かけた作者は、殻を掴んで持ち上げてみる。初めはねばねばした柔らかい身体を伸ばして、つまみ上げられることに抵抗を試みた「ででむし」も、ついには持ち上げられてしまったのである。

 作者は、こうして「地面」から持ち上げられてしまった「ででむし」のことを「地球」から「切り離した」と表現した。一見、「何を大袈裟な」と思われる読者も少なくないであろう。しかし、地を這う虫、「毛虫」でも「芋虫」でも、あるいは「蜥蜴」などと比べても、「蝸牛」(実は蛞蝓もだが、蚯蚓をつまみ上げるのは気持ち悪い)ほど、地面に密着して移動する虫は思い付かない。

 ここに至って作者の表現は「表現のための表現」ではなく、確たる実感に裏打ちされていることが判る。この句を巻頭に据えた所以である。 (本井 英)

雑詠(2017年12月号)

ででむしをつまみ地球と切り離す		磯田知己
形代に老若男女表裏無く
歩行者用ボタンを押して片陰へ
空蟬の中は随分窮屈さう

浜木綿の明日咲く蕾への字なる		早稲田園子
白鍵に沈める指や夜の秋		田中 香
垣根なき海辺の暮らしカンナ赤		小川美津子
かもめ現る夜涼の船の灯の中に		津田祥子

主宰近詠(2017年12月号)

口うるささよ  本井英

叔母ひとり手狭まに暮らす残暑かな

新松子まつぼつくりも脇になほ

自転車の胸から上が蘆原を

沼風のおよびてはをり夏蕨

雀蜂に喰はれて蝶は翅四枚




秋鯖の腹のほのかに黄をおびし

あをあをと紡錘(ツ ム)のかたちに烏瓜

秋灯にあからさまなり御前立ち

鮒用の道具ですがと鯊を釣る

眺望や島崖は枸杞咲きさかり




女郎蜘蛛肥えてゆく日々空碧し

寺女の口うるささよ萩に雨

浜にはや佇む影は月の友

赤蜻蛉簗場の空の広からず

丘空に湧いて運動会の楽




裾風に雁金草の浮き上がり

林中の説明板の蛇拙な

蒲の穂の(シシ)むらだてるあたりかな

稲架の影稲架を外れてありにけり

風のよく通へる落穂拾かな