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祐之 について

「夏潮」運営委員の杉原です。 平成二十二年四月に第一句集『先つぽへ』を出版

【中本真人句集『庭燎』】 ふらんす堂_(杉原)

【中本真人句集『庭燎』】 ふらんす堂

中本真人句集『庭燎』

中本真人句集『庭燎』

 「慶大俳句」出身で、「山茶花」飛天集同人の中本真人(1981年生)の第一句集。

 氏は奈良県の高校を卒業後上京し、平成13年4月に「慶大俳句」へ入会。俳句と出会い、翌平成14年に「山茶花」に入会。平成16年に「第一回鬼貫青春俳句大賞」を受賞。一昨年発売の『新撰21』でも、伝統俳句陣営の代表として参加、高い評価を得ている。

 学究の徒として国文学で古代中世芸能を専門とし、神楽など伝統芸能への造詣は深く、本句集のタイトルを初めとし、句集の中に数々その「知識」が現れている。

 古代民俗芸能への深い傾倒は、「慶大俳句」の一つの伝統とも言うべきものであり、折口信夫―池田弥三郎―清崎敏郎を経て、彼の絶対的な師である三村純也に強く伝わっている。勿論、我々「夏潮」主宰本井英にも連なっておる大事な要素。そこに人々の暮らしや祈りが積み上がってきている点で、「季題」との親和性も深い。特に彼の場合は、自分が属している学問の世界、「知性」に高いプライドを持っていると考えられる。それは、専門の世界の神楽の俳句を見ると分る。

 その一方で、この句集の特徴をなす、人々の「あられもない」喜怒哀楽を俳句と言う詩形で描き出す句のギャップ。もしかすると、対象を突き放したようでいて、彼は自分の「人間臭さ」を俳句を詠むことで表そうとしているのではないか。

 野心のある若人の句集、楽しませて頂きました。

●欠点の子らを集めし夜学の灯 真人

 教育実習6句 と前書。季題は「夜学」。作者が教育実習で行った光景でしょう。 昨今は「長所を伸ばす」ことばかり言われますが、教育・指導の役割では「欠点を指摘し直す」というのは不可欠であると思います。作者は頭で理解した教育理論を教育実習という「初めての現場」で試行錯誤しながら対応。「欠点」で甘い情を拝し客観的な句となり、「夜学の灯」というノスタルジックを醸し出す季題で暖かい雰囲気の一句に仕上げた。悩みながら手探りで教えている自分と、悩みながら学んでいる生徒を窓の外からの第三者の視点で詠んだのが功を奏した。

 これは、また彼の句の詠み方の一つ。

●島に着く物資に燕舞ひにけり 真人

 沖縄7句 と前書。季題は「燕」。どこの島でもよいが物資の輸送は船に頼っている。その船がある島の港湾に着き荷卸しをすべく、フォークリフトなどが接近。その上を燕が自由に回っている。直線的な飛び方をする燕が舞い回っている。その燕らはきっと島に櫛比している家並みの軒先を借りて生活している。一足先に島に物資が届いたことを燕らが、言祝いでいるように感じられる。

●両膝をついて降参追儺鬼 真人

 季題は「追儺鬼」。 「追儺鬼」は節分の鬼を指します。徹底して豆をぶつけられて追われる役ですが、最後はこれまた徹底して両膝をついて降参した。一見馬鹿馬鹿しい様なくですが、こうやって俳句形式で描かれるとまた不思議な面白さがある。如何にも大げさに降参していると言う感じが伝わってくる。俳句の詩形を活かした「旨味」のようなものが滲んでいる一句。

●炭竃を尻から這うて出て来たる 真人

季題は「炭」。炭の竃から人が出入りする際は、狭い口から体をねじ込んで入っていく。 この句は出てくる様を斯く言う風に詠んだ。当たり前の光景を当たり前のように五七五に切り取り滑稽味が感じられる。人間の生きている様と言うのは、実は滑稽の連続なんではないでしょうか。氏の場合は、それを気取らず、照れず、恥らわず その生身の人間の一面を俳句十七文字で切り取る。ただし滑稽味ばかりではなく、季題と定型と言う「ブレーキ」を用いることで、月並俳句や理屈に落ちる寸前で「詩」としての「純度」を保っているのではないでしょうか。

以下、印をつけた句を紹介します。

Ⅰ.紀ノ川(平成13年~16年)

バーベキューソースの中の落花かな
どやどやと遍路入り来る湯船かな
兼題をメールで送る子規忌かな
競泳のぶつきぎりなる拳挙げ
 

Ⅱ.夜桜(平成17年~18年)

夜桜を見回りの灯のよぎりけり
峰入に奈良交通のバスが着く
人生に就職の二字秋深し
遠足を離れて教師煙草吸ふ
おでん屋の端数引かれし請求書
 

Ⅲ.指輪(平成19年~20年)

受験子のペン先宙に何か書く
神楽の山盛りの炭使ひ切る
毒茸怒鳴られながら捨てにゆく
御神楽の庭燎の太き薪かな
 

Ⅳ.漆掻(平成21年)

傀儡のぺたりと倒れすぐ起きる
涅槃通夜勤め上げたる額光る
落第の一人の異議もなく決まる
遊船に椅子を重ねて運び込む
ぼろ市の警備詰所も露店めき
 

Ⅴ.鉾立(平成22年)

壺焼の吹きこぼれをるバターかな
草笛となるまで草を替へにけり
鉾立のすれすれにバス通りゆく

★ふらんす堂のHP

http://furansudo.ocnk.net/product/1731

 〆

『風樹』_高瀬竟二句集

【高瀬竟二句集『風樹』】

【高瀬竟二句集『風樹』】

『風樹』_高瀬竟二句集

『風樹』_高瀬竟二句集

ふらんす堂、平成二十三年二月

「ホトトギス」「海坂」「玉藻」などの同人で、「夏潮」でも課題句選者を勤められている高瀬竟二さんの第三句集。

平成七年から十九年までの十三年間、その間に氏は銀行を定年退職され、一人っ子の愛娘様が嫁いでいったとのこと。

 

 句集の題名は第一句集から「花鳥諷詠」に因んだ名前をつけてこられたので、今回は「諷」にちなんだ言葉から「風樹」というタイトルを選ばれたとのこと。

 

現在では虚子の「追っかけ」として全国の句碑を巡る旅をされており、まもなく全国制覇。

 

 花鳥諷詠の王道を行くような写生句と、心の底から浮かんだ感情を静かに季題に託して詠みあげる技術は目を見張るものがある。

 ご本人が「あとがき」で、「自句との類句類想が気になる」「句意が表面出て報告に終っている」と厳しく自己反省されている点、見習うところ大である。

 更なる高みへ向け、我々を導いて頂きたい。

 

以下、印をつけた句を紹介したい。

「春暁抄」

・風音を松の高きに初詣

・悴みて天といふ字のゆがみたる

・風の木曽瀬音の飛騨や旅の秋

・残菊の裏庭に日のまはりたる

 

「夜涼抄」

・初夢の大蛇のごときものに遭ふ

・手の見えて柱のかげの甘茶仏

・おほよその数を並べて藺座布団

・子と仰ぐ虹の断片まだ失せず

・嫁ぎたる子の部屋暗し遠花火

・流灯を爪先濡らす水に置く

・ダムできる前の話や衣被

・蒟蒻を掘る山影を重く負ふ

・畦そこら枯れ極まりて日にまぶし

 

「待宵抄」

・食積の曲げて収まる海老の髭

・終日を耕し天に至らざる

・漱石を伏せて新茶を淹れにけり

・岸壁の秋やひらひら魚釣れて

 

「霜声抄」

・新年の岸壁天へ反るごとし

・湖の魚網に乏しき義仲忌

・能面に血のいろ通ふ花の昼

・繭籠の傷みの見ゆるまま積まれ

・力瘤失せたる腕を蚊が刺しぬ

・抱へ来るぐるぐる巻きの日除かな

・廃校の西日の壁の世界地図

・鎌の柄に二百十日の風湿る

・糸瓜忌の棚から垂るるものの影

・腰かがめ水禍の稲を起こし刈る

・敗荷の折れ伏すことの待つたなし

・我と我が影と冬田の端よぎる

 

★外部リンク

「ふらんす堂」HP

http://furansudo.ocnk.net/product/1672

http://fragie.exblog.jp/d2011-02-15/

 

「俳諧師前北かおる」

http://maekitakaoru.blog100.fc2.com/blog-entry-633.html

【山口優夢句集『残像』】 角川書店_(杉原)

【山口優夢句集『残像』】 角川書店、平成二十三年七月

山口優夢句集『残像』

  平成22年第56回「角川俳句賞」受賞作家による第一句集。百八十四句を収録。

 アンソロジー「新撰21」(邑書林)に参加、同参加者の作品を評した評論集『叙情無き世代』も大変興味深い作品。

 所謂「俳句甲子園世代」の代表的作家の一人、第6回俳句甲子園個人最優秀賞を受賞。

その後東大に進み地質学を専攻し大学院に進学しつつ、句作を続けている。

昨年新聞社に就職し、現在は甲府に駐在している模様。「銀化」に所属。

 

 本人も後書に記しているように、全く好景気を知らない吾らの世代の「平成のとの曇」を象徴するかのように低血圧気味の俳句が目立つ。

真面目で良い生活をしっかりと堅実に行っているであろう人柄が、奇を衒うことのない句柄に表れている。

句の表記としては、平仮名を用いて柔らかま叙情を出そうとしている意図があると思う。

 これから、彼の俳句の「叙情」「叙事」がどのように進んでいくのか、楽しみである。

 

雨降るもあがるも知らず薬喰 優夢

 

季題は「薬喰」。外の様子を伺えない鉄筋コンクリートの宿か店で鍋を囲んでいるのだろう。

鍋を突きつつ、それぞれの話題に興じていた。「薬喰」を終え、外に出てみると雨が降りあがった形跡があった。

 「薬喰」と言う生臭い行為と、その間に外で起こった事象との断絶を感じたのであろう。

 

電話みな番号を持ち星祭 優夢

 

季題は「星祭」。七夕の夜に牽牛、織女の二星を祀る行事。取合せの俳句。

彦星、織姫及びそれを取り巻く無数の星。それを見ていると、今の我々はほぼ一家に一台の電話と一人一台の携帯電話を持つようになっている。それぞれに番号てふ、無機質なものがもれなくついて管理されている。

「携帯」ではなく「電話」。「電話」と呼び方も既にレトロなイメージを負う様になっている、平成二十年代の俳句であろう。ちょっとアンニュイな感じが面白い一句。

 

 

 以下、印をつけた句を紹介したい。

●第一部 どこも夜

あぢさゐはすべて残像ではないか

襖越しの着信音やいつまでも

大広間へと手花火を取りに行く

盆の月この世はどこも水流れ

花ふぶき椅子をかかへて立ち尽くす

臍といふ育たぬものや暮の春

風鈴のいつぱい鳴つて誰も来ず

幾百の留守宅照らす花火かな

眼球のごとく濡れたる花氷

鍵束のごとく冷えたるすすきかな

 

●第二部 どれも明るく

心臓はひかりも知らず雪解川

小鳥来る三億年の地層かな

日本語に英語で返す焚火かな

ぶらんこをくしやくしやにして遊ぶなり

糸瓜棚本しばる紐手に痛し

酒飲んで伝票増やす霜夜かな

卒業や二人で運ぶ洗濯機

親戚を町の名で呼ぶ茸飯

鮎小さければ吐きたる血もすこし

問診は祭のことに及びけり

野遊びのつづきのやうに結婚す

 http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201104000137

【ご案内】第36回mixi句会9月3日(土)22時〆7句

【ご案内】第36回mixi句会9月3日(土)22時〆7句

オンラインでの句会のご案内です。稽古会も終り9月から通常の句会体制に戻ります。

その足馴らしとしてmixi句会など如何でしょうか。

詳細は下記URLへ。mixiを使っていないが興味のある方は杉原宛にメールorコメント欄で

ご一報下さい。要領をお伝えすると共に参加いただける様ご調整します。

http://mixi.jp/view_event.pl?id=64641098&comment_count=3&comm_id=2843365

 

 

投句当季雑詠7句 9月3日(土)22時〆

選句 7句(参加人数により変動) 4日(日)22時〆

 

 どうぞご気軽にご参加下さい。

 

                            〆

予告~次週より若手俳人の句集を紹介します(杉原)

志賀高原の稽古会はなかなかの賑わいのようです。

今年は仕事の都合で参加できず臍をかんでおりますが、「汐まねき」の経過報告を楽しんでおります。

 

さて、当コーナー、最初の3回は小諸の「日盛り俳句祭」の紹介を致しました。

今週は稽古会の記事をお楽しみいただくとして、来週より私と同世代の俳句の仲間の

句集をご紹介させていただきます。

「夏潮」の方々の刺激となって頂ければと思います。

また取上げて欲しい句集などありましたら、杉原宛にご連絡下さい。