投稿者「管理人」のアーカイブ

課題句(2015年12月号)

「薬喰」      田中 香 選

座を離れ山気に在る身薬喰		青木百舌鳥
まづは炉に沸かす沢水薬喰		
荒魂の噯に出づる薬喰		前北かおる
唇に色の戻りぬ薬喰			櫻井茂之
大袈裟と嘘とは違ひ薬喰		本井 英
父の世の旅の話や薬喰		津田伊紀子					

課題句(2015年11月号)

「鷹」  櫻井茂之 選

鷹柱その頂(テッ)辺(ペン)が鷹放つ	藤永貴之
鷹柱たり殿の一羽まで
まだ動くものを摑みて鷹の飛ぶ		小林一泊
鷹一羽遠くにスカイツリーある		児玉和子
М型に突と羽根立て鷹降下		前田なな
岬山の画然とあり鷹渡る		本井 英
					

課題句(2015年10月号)

「十月」  馬場紘二 選

十月やカチッとしたるスーツ着て   山本道子
指先まで十月の気の行き渡る
十月や匂ひ溢るる果物屋       鐘居寿子
五感すませ十月を味はひにけり    天明さえ
十月や水の色なる空の色       藤永貴之
十月の素足で踏める堂の床      櫻井茂之
					

雑詠(2016年11月号)

雲の峰アフリカ行きの船が出る		山内裕子
おしろいや官報黄ばむ掲示板
蚯蚓見てをればまた雨降り出して
村の昼しんと静まり雲の峰
迷ひなき一羽に率かれ鷹柱		櫻井茂之
柴漬に見えて動かぬ小魚かな		藤永貴之
カーテンのやうに降る雨梅雨深し	杉原祐之
今はただ全速力といふ毛虫		磯田知己
					

雲の峰アフリカ行きの船が出る    山内裕子

 季題は「雲の峰」。一句の解釈上のポイントは「アフリカ行きの船」、「アフリカへ行く船」ではない。つまり「アフリカ行き」は「定期化」・「路線化」されていることを窺わせる。このことから、およその「舞台」が見えてくるのである。横浜の大桟橋や東京の日の出桟橋から「アフリカ行き」の定期便は出ていないし、出ていたこともない。戦前の郵船なら「マルセーユ行き」や「シアトル行き」があったのだが……。

 では現在そんな「定期便」はどこにあるのか。ここからは想像であるが、マルセーユとかナポリとかなら、今でもありそうだ。マルセーユ発アルジェ行きとか、ナポリ発チュニス行きとか。

 もう一つ問題がある。それは「アフリカ」と聞いた時に最初に持つイメージである。実はわれわれ日本人の多くは「アフリカ」に対する印象は濃くない。関わりが薄いのだから仕方がないが、肉食獣と草食動物が死闘を繰り広げるサバンナや、その遥か後方に聳えるキリマンジャロ。あるいはビクトリア湖やサハラ砂漠。どれも漠然とした「映像」ばかりだ。

 ところがフランス人やイタリア人にとって「アフリカ」は、海の彼方に展開する具体的な「土地」であり、帝国主義的な目で見れば涎の出るような「稼ぎ場」だし、逆にアフリカからヨーロッパへ出稼ぎに来ている人々にとっては「悲しい故郷」であろう。

 地中海を南北に渡る「航路」は何千年もの昔からの「ドラマ」の背景だった。比べるのは妙だが「ご覧、あれが竜飛岬、北のはずれと」ぐらいの感情はついて回っていたに違いない。

 青々としたメディタレイニアン・ブルーの海原の先に、屹立する「雲の峰」は、冒険心だったり郷愁だったりをたっぷり誘い出してくれる。飛行機に乗る金も無く「定期便」に大きな荷物を担い込む人生。

 白亜のクルーズ船の隣に舫われた錆びだらけのポンコツ船を見ながら「アフリカ行き」だってさ、と呟く作者の姿も見えてくる。(本井 英)