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主宰近詠(2018年1月号)

柿もいでくれもする   本井 英

山梨の(カス)口中にほの甘し

水仙の芽だち袴も行儀よく

鶺鴒や追ひ越しさうに追ひすがり

秋風に鷺の綿羽吹かれどほし

 

木曽三川

河の秋輪中(ワジユウ)浮かびし世々のこと




桑名城
戦はず開きたる城曼珠沙華 菊人形の手摺のにはか造りなる 菊人形の草摺ことに華やかに 灯を消せば菊人形の香ぞ満つる 老木にいたはしきまで新松子




胴の間に積む蛸壺に秋の雨

秋雨にA旗掲げて浮かびをり
「A旗」は潜水中の意の信号旗
ソウル清涼里
尼寺の尼柿もいでくれもする




 
慶州
いかのぼりを野分の空に放ちたる 山雀や一旦藪へ消えてまた 山雀の頰つぺたの薄汚れたる 初鴨のすべなく降られをるばかり

課題句(2017年12月号)

課題句 「短日」          藤永貴之 選

ロープウェイ下りて里曲の暮早し	岩本 桂子
みちのくの旅のはじめの暮早し

廃寺とて掃く人のあり日短		櫻井 茂之
短日の産土に来て祈る人		根岸美紀子
短日や句会戻りの夕支度		前田 なな
内灘まで来てみたりしが日短		本井  英

ででむしをつまみ地球と切り離す 磯田知巳

 季題は「ででむし」、「蝸牛(かたつむり)」の傍題である。「でんでん虫」とも呼び、さらに「でーろ」、「まいまい」、「みな」など方言が豊かなことでも知られ、柳田国男に有名な「蝸牛考」なる論文がある。この「ででむし」という呼び名は「出ろ出ろ」と蝸牛を囃して「角」を出させる「遊び」からの命名と言われる。「♪ヤリ出せ、ツノ出せ、アタマ出せ」である。

 作者もまた、この「ででむし」を見掛けて、大いに「遊び心」が発動したのであろう。ゆるりゆるりと石畳の辺りを移動していた「ででむし」を見かけた作者は、殻を掴んで持ち上げてみる。初めはねばねばした柔らかい身体を伸ばして、つまみ上げられることに抵抗を試みた「ででむし」も、ついには持ち上げられてしまったのである。

 作者は、こうして「地面」から持ち上げられてしまった「ででむし」のことを「地球」から「切り離した」と表現した。一見、「何を大袈裟な」と思われる読者も少なくないであろう。しかし、地を這う虫、「毛虫」でも「芋虫」でも、あるいは「蜥蜴」などと比べても、「蝸牛」(実は蛞蝓もだが、蚯蚓をつまみ上げるのは気持ち悪い)ほど、地面に密着して移動する虫は思い付かない。

 ここに至って作者の表現は「表現のための表現」ではなく、確たる実感に裏打ちされていることが判る。この句を巻頭に据えた所以である。 (本井 英)

雑詠(2017年12月号)

ででむしをつまみ地球と切り離す		磯田知己
形代に老若男女表裏無く
歩行者用ボタンを押して片陰へ
空蟬の中は随分窮屈さう

浜木綿の明日咲く蕾への字なる		早稲田園子
白鍵に沈める指や夜の秋		田中 香
垣根なき海辺の暮らしカンナ赤		小川美津子
かもめ現る夜涼の船の灯の中に		津田祥子