「夏潮 第零句集シリーズ 第2巻 Vol.6」田中香句集『雪兎』〜冷静な写生〜

「夏潮 第零句集シリーズ 第2巻 Vol.6」田中香句集『雪兎』〜冷静な写生〜

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「夏潮第零句集シリーズ」第2巻第6号は田中香さんの『雪兎』。
田中香さんは福岡の学校で教鞭を執られている。
福岡勢としては本シリーズに4人目の登場となる。他の方と同じく勤務先で藤永貴之さんに誘われて句作を始め、平成20年に夏潮会へ入会。
抑制された冷静な写生が氏の俳句の特徴であろう。
しっかりとものを見、納得できてから言葉を紡ぎ出している。私などは即物的な反射で句にしてしまうことが多いので、田中さんの姿勢を見習いたい。
 
瀬戸物のやうに開いていぬふぐり 香
→季題は「いぬふぐり」。青く可憐に咲きながらこんな名前をつけられてしまった。名前の面白さに遊ぶのではなく、見たまま、感じた様を句にした。結果として瀬戸物のようという素晴らしい修飾と、それでも名前は「いぬふぐり」であるおかしみが同居することとなった。
潮風を吸つて大根干し上がる 香
→季題は「大根干す」。夏潮のお手本のような句。緩みと無駄のない措辞からしっかりと浦の景色が立ち上がって来る。軒先の干し大根の引き締まった様子が目に浮かぶ。
 
今回の100句を通してみると優等生な句ばかりが並んでしまった印象も否めないが、まだ4年の句歴。これから冷静な写生をベースとし、幅を広げた作品を見せていただけることと思う。

 
その他印を付けた句は下記の通り、
老鶯のコロラトゥーラや山の朝
桟橋に残る鱗の凍つるかな
後ろ手に談笑しつゝ春の朝
リヤカーの轍途切れて蛇苺
地球儀の角度に眠る蓮の花
秋の田にゴッホの黄色ありにけり
蠟梅を離るゝときにふと香る
真円に開き初めたる八重椿
菜の花の映り込みをる玻璃戸かな
放課後の窓に木犀にほひ来し
櫟の実握つてみればあたたかし
 
(杉原 祐之記)
 
田中香さんにインタビューをお願いしました。
130226_KaoriTanaka

 Q1;100句の内、ご自分にとって渾身の一句

→朝の日の力集めて冬の蝿

    冬の余呉ではあまりの寒さに発熱しました。その翌朝の、文字通り「渾身」の一句です。

 
Q2;100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。

 →上達を信じて続けることと、人として成長することです。

  

Q3;100句まとめた感想を一句で。

 →けふの日を終へて睡蓮眠りをり

「夏潮 第零句集シリーズ 第2巻 Vol.6」田中香句集『雪兎』〜冷静な写生〜” に1件のフィードバックがあります

  1. 祐之さんへ 零句集鑑賞ありがとうございました。どんな句評をいただけるかドキドキでしたが、私が自分でも特に好きな二句を選んでいただいて、とても嬉しいです。ご指摘の通り、比較的冷静な作品ばかり選んでしまったかもしれないと気づかされました。これからはもっと守備範囲を広げつつ、冒険もしてみたいと思います。そちらでは、待ちに待った春まであと少し、というところでしょうか。ご帰国の際はまた句会でお目にかかれますように! 香
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