彼だけが 本井 英 大叔父の遺贈の火鉢桔梗萌ゆ どことなく帯びる紫桔梗の芽 川の名を小鮎川とよ田螺和 つん〳〵とこぶ〳〵と山笑ふなり 磐座のそれと仰がれ山笑ふ 象牙色のロールスロイス沈丁花 梅が枝に目白は縋り翻り 梅が枝の目白の頸のよく捩れ 日薬といふ言の葉や春障子 菜の花の黄や滾々と湧くごとし
蛇穴を出づると決めて出でにけり 江ノ電の徐行に親し梅の庭 春寒の極楽洞へ尾灯消ゆ 花韮の花ことごとく雨に閉ぢ 段取りを考へてをる朝寝かな 目をねぶりをるばかりなる朝寝かな けふも干すウエットスーツ花ミモザ オリーブも植ゑてみやうかミモザ咲く 彼だけが木五倍子の房に手が届く 目で算みて十五六ほど花貝母