主宰近詠(2025年5月号)

彼だけが   本井 英

大叔父の遺贈の火鉢桔梗萌ゆ

どことなく帯びる紫桔梗の芽

川の名を小鮎川とよ田螺和

つん〳〵とこぶ〳〵と山笑ふなり

磐座のそれと仰がれ山笑ふ

象牙色のロールスロイス沈丁花

梅が枝に目白は縋り翻り

梅が枝の目白の頸のよく捩れ

日薬といふ言の葉や春障子

菜の花の黄や滾々と湧くごとし
蛇穴を出づると決めて出でにけり

江ノ電の徐行に親し梅の庭

春寒の極楽洞へ尾灯消ゆ

花韮の花ことごとく雨に閉ぢ

段取りを考へてをる朝寝かな

目をねぶりをるばかりなる朝寝かな

けふも干すウエットスーツ花ミモザ

オリーブも植ゑてみやうかミモザ咲く

彼だけが木五倍子の房に手が届く

目で()みて十五六ほど花貝母