第3回親潮賞、黒潮賞 関連企画 で諏訪の矢沢六平さんより素敵な原稿と、
応募作品20句を開示頂きました。是非皆様ご覧下さい。
また、応募作品20句を開陳されたい方がいらっしゃいましたらどうぞ遠慮なく代表アドレスまたは、
杉原宛にお送り下さい。
逆選!『第三回黒潮賞』応募作品 (矢沢六平)
みなさん今晩は、信州の御柱バカ・矢沢六平です。
驚いたことに私は今年で五十歳になるようですが、まだ少年だった二十歳前後の頃、生意気にも大人の句会に出てみたりしたことがありました。そこでは、参加人数が五人くらいで少なかったりすると、投句の点取り合戦を楽しんだりしていたことを記憶しています。
やりかたは、こんな感じ。
五句選だとすると、必ず「特選」と「逆選」を一句ずつ入れて合計五句を選ぶルール。そして、入選は一点、特選は三点、逆選はマイナス二点(一点だったかな)で集計して、最も高得点だった句を褒め称える…。
一句ずつ皆なで句評して、一通り言い合った後で、作者の名乗りとなります。
誰にも採って貰えなかった句が残念だったのは言う迄もありませんが、特選よりもむしろ、逆選の句評がなかなかスリリングで楽しく、大人ってスゲ〜なあ、と思ったものでした。
てなことを思い出しつつ、今回、私が黒潮賞に応募した投句二十句から、一人句会をして、逆選を選んでみました。
逆選句というのは、句評が加わると、なかなか捨て難く「味わいのある」句になる場合があります。
さてさて、私の逆選が、主宰の逆選にも適う上等な(!?)駄句でありましたかどうか……。誌上には掲載されていないボツ句を、お楽しみ頂ければ幸甚です。
ただラジオ鳴りをり夏至の百姓家 六平
一年で一番昼間が長い日の真っ昼間、百姓家が留守だった。というのは、成程「かんじ」がある。ただ、「ただラジオ」というのが、「やっつけ仕事」的なのかなあ…。「ラジオただ」よりは工夫があると思うけど、やっぱ、ボツ!
おかず訊く子と十薬の帰り路 六平
脇に十薬がはびこっている小道を子供と帰りました。夕暮れで、白い花も小さく咲いています。今夜のおかずはなあに。子供が訊きました。素敵だなあ! でも、この語順だと、そんな「帰り路」でどうしたの? 何があったの? と聞き返したくなってしまうよね。なので、ボツ。
父のゐる夕餉楽しき野分前 六平
台風だからお父さんが早退けしてきて一緒に夕ご飯を食べている。いつもは、いないのに…、楽しいっ! ということは、お父さんはサラリーマンだ。「野分」というクラシックな言い方が、キズに思えてならないけどいかが? 仕方ないのかな?
送り火の箒のあとに煤すこし 六平
送り火をした翌朝の光景ですね。「箒のあとに煤すこし」という言い方がどうなのか。送り火の煤が残っていてよく見れば箒の掃き跡がある、ってことが言いたいんだよね?
さなぶりや児童学生よく食べる 六平
虫追ひの子等は揃ひの体操着 六平
稲筵進路指導の窓の外 六平
伝統的な農村の暮らし。現代にあっても形を変えつつ継承されている。その様子を詠むことで読み手に「今の日本」を問いかけている。いかにも都会の人が反応しそうな、あざとさがイヤ。悪くないんだけどね…。
平成二十三年『黒潮賞』矢沢六平応募作品
ただラジオ鳴りをり夏至の百姓家
さなぶりや児童学生よく食べる
◎せき止めて遊びし跡や夏河原
◎高々と重ね麦藁帽子売る
◎大鎌を腰だめで振る大夏野
おかず訊く子と十薬の帰り路
大葎螢火海のごとうねる
◎宿浴衣着てそれぞれに家族なる
◎夜濯ぎや湯宿の裏に寮ありて
空蟬や漬け物倉の石框
◎隊商のごとく瓜馬茄子の牛
送り火の箒のあとに煤すこし
投光器焚いて踊りの稽古かな
地下足袋を履いて身軽や今朝の秋
◎遠花火揚がり夜空に雲あるを
父のゐる夕餉楽しき野分前
◎谷に沿ひ村細長き蕎麦の花
畑仕事して風呂を借る良夜かな
虫追ひの子等は揃ひの体操着
稲筵進路指導の窓の外
※◎が「夏潮」1月号掲載句。
〆