小池康生『旧の渚』(ふらんす堂)_(杉原)

小池康生『旧の渚』(ふらんす堂 2012年4月)

小池康生さんは、1956年大阪市生れ。1996年頃から作句を開始し、2001年「銀化」へ入会、中原道夫氏に師事。2003年には銀化新人賞を受賞されている。
大阪在住で、マスコミ関係のお仕事をされているとのこと、何処か少しずつずらしながら季題を生かした俳句を詠まれている。「銀化」らしい知的に積上げられた句が多いと感じた。

 濯げども濯げども夕立の匂ひ 康生
 炬燵出す去年の匂ひしてきたる 康生
→この句集で私が印を付けた句には「匂ひ」が多かった。

 私が偶々好きなだけかもしれないが、「匂ひ」にこの作者の「ざらざら感」が伝わって来た。
 前者の季題は「夕立」。夕立で濡れた洗濯物を濯いだ。

 洗濯機でも洗濯板でも良いが、夕立と汗に塗れたシャツは確かにある独特の匂いがある。この句の背景は「序文」で中原主宰が明かしているが、それを知らなくとも働き盛りの男性らしい俳句である。
 後者の季題は「炬燵」。炬燵を押入から引っ張り出すと、色色な染みや傷が見えてきた。それらと共に「匂ひ」も伝わり、昨年の思い出と共に「蘇ってきた」。この匂いにはある哀しみが感じられる。

 風呂吹のなかの炎にゆきあたる 康生
→季題は「風呂吹」。集中最後の一句。風呂吹を箸で崩していくと、その中は芯が燃えているように、熱を持っていた。

 それを作者は「炎につきあたる」と詠んだ。そこに感動があった、確かな実感と共に。「炎」と詠んだところが素晴しい。
 勿論、作者の俳句に対する思いと重ね合わせて解釈しても良いだろう。

 中原道夫主宰の懇切丁寧な序文は、読み応えがあるが、一部作者の句集に書かれていない「背景」に踏み込まれ過ぎていて、結社(「銀化」)外の人間としては困惑するところがあった。

 「銀化」外の人にも分りやすいよう意図したのかもしれないが、逆にこの句集が「銀化」のものであると言う感が強くなってしまった。序文は難しい。

小池康生『旧の渚』

その他の印をつけた句を紹介したい。

金魚より重たき水を掬ひけり
人乗つて硬くなりたるハンモック
セーターに出会ひの色の混ぜてあり
雪捨場夕日も捨ててありにけり
浮寝鳥旧の渚はこのあたり
連翹や午後から曇る日の続き
六月の何度か切れるアーケード
梅雨明けて木場の丸太の浮き沈み
ぼうたんの手前に風の止まりをり
螢狩鉄路の上を歩みけり
船渡御に夜店の匂ひ届きをり
羽蟻の夜ブッフェの補充遅れがち
内側に肉を滑らす栄螺かな
てふてふや崩れさうなる荷を乗せて
風光るパスタひねつて盛りつける
ひとかけもひとかたまりも桜海老
老海女の毒づきながら着替へをり
漁火やビール二種類混ぜあはす
月光のせせらぎに口漱ぐなり
流れ星船員手帳色褪せど

以上(杉原記)

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