課題句「チューリップ」 冨田いづみ 選 チューリップローカル線の窓一面 磯田和子 一区画赤に尽くしてチューリップ チューリップ今日の日差しに開き初む 宮田公子 チューリップ終の姿のしどけなく 児玉和子 チューリップ開いて閉ぢて一日かな 小山久米子 チューリップの首刎ねてあり一ト畑 本井 英
課題句(2023年4月号)
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課題句「チューリップ」 冨田いづみ 選 チューリップローカル線の窓一面 磯田和子 一区画赤に尽くしてチューリップ チューリップ今日の日差しに開き初む 宮田公子 チューリップ終の姿のしどけなく 児玉和子 チューリップ開いて閉ぢて一日かな 小山久米子 チューリップの首刎ねてあり一ト畑 本井 英
季題は「極月」。陰暦十二月の異称であるが、「十二月」というより、いかにも押し詰まった気分が強い。街の様子や、行き交う人々の表情にも、せかせかした慌ただしさが感じられる。また「吊広告」はほとんどの場合、電車あるいはバスの車内に吊すもの。昔は週刊誌の見出しなどが、ゆらゆら揺れていて、「吊広告」を眺めただけで、世間の「話題」が見えるような気がしたものだが、近年は、あまり見入るような「吊広告」にはお目にかからない。
さて掲出句は、その「吊広告」に「ハワイ旅行」の案内があったというのである。おそらくは旅行代理店あたりのもので、ワイキキビーチを背景に水着の男女が楽しげに頰笑みあっているものであろうか。「極月」のセカセカした気分とは、全くかけ離れた、「夢のような」、それでいて、一ドル三百六十円の時代のような「憧れ」とは違う現実感をもって人々が見上げるものとしてぶら下がっているのである。世界に誇る経済大国であった時代を過ぎて、すっかり零落してしまった日本の現況を考え合わせるとき、なんとも言いがたい、皮肉な「俳諧」を感じさせてくれる一句となった。(本井 英)
極月の吊広告のハワイかな 山内裕子 蔦枯れて日を吸ひ込みぬ大谷石 白樺の榾焚いてみせ爐の主 夜半には雪となるらし蕪汁 甲板にひとり残りて冬の月 梅岡礼子 向き合うて六十回目の御慶 牧原 秋 杜父魚の掌めける胸鰭よ 磯田和子 バギーより見上ぐる春の空どんな 信野伸子
襲はれし如くに 本井 英 迎春と左横書き宮の春 坪庭や福藁の香の充ちわたり 福藁や女将は父を知れるひと いつの頃よりか姉にもお年玉 病める身を励まし寒に入らんとす 寒林を明るく載せて中洲かな 寒梅にぱちつと雨の当たるとき 前栽の茶畝に寒の雨やまず 涸池に降り込む雨のあからさま 冬の雨つひに欅の幹伝ひ
提灯の尻揺れやまず桜鍋 氷上に水の溜まりて景映す 声かはすなく寒林にすれちがひ 水鳥の水尾のめらめら〳〵す くづほれて褞袍のやうや枯葎 襲はれし如くに蒲の穂綿散る 身中にひそむ病魔も春を待つ 氷解けて池面ささやきそめにけり 丈とてもなく魁の犬ふぐり 落椿滑川へと水奔り