日別アーカイブ: 2023年1月14日

課題句(2023年1月号)

課題句「年玉」		青木百舌鳥 選

年玉を両手で受くる子となりぬ		田中 香
歳の順守りて渡すお年玉		
お年玉もらひに降りてきたりけり	前北かおる
年玉にはなやぐ時代なつかしく		岩本桂子
いと小さき手にベッドよりお年玉	岡本春子
お年玉遣るも貰ふも目を細め		磯田和子

主宰近詠(2023年1月号)

桃吹きぬ    本井 英

曳波のおもはずあふれ荻の岸

切幣の散らかつてゐる秋の暮

泥煙鯊がたてたり流れけり

鰯雲みしりみしりと目のつまり

愛宕社も伊勢社も柿の里の辻

撮り合つて見せ合つてゐる秋日和

更けつのる夜寒の舞台稽古かな

朝食は七時よりとよ小鳥来る

なほ吹かぬ実のありながら桃吹きぬ

棕櫚の実の育ちつつ黄のうすれつつ


ライトアップされて夜寒の天守閣

小鳥来て小鳥去りたり行啓碑

琴の音の止むときのなき菊花展

足元にホースのたうち菊花展

菊花展のテントの奥に何か煮る

こまごまと律義に実り男郎花

歩十歩に振り返りたり男郎花

通草生りをると男の声澄めり

暮の秋人少ななる巫女だまり

暮の秋安曇野ちひろ美術館

健脚組ここで別るる富士薊  岩本桂子

 季題は「富士薊」。多く富士山麓で見かけることから、この名があるという。普通の薊より葉も大きく棘も硬い。一句のキーワードは「健脚組」。勿論客観的な基準がある訳では無く、全体の中で、比較的脚力、その他体力ありとみなされたグループの仮の呼称といったところ。それでも、たとえば二、三十人のグループが一緒に合宿をしようなどという場合には「健脚組」と「足弱組」に分けて、歩くコースなどを分けることが、結果としては無理が無く、良い結果をもたらす場合が多いようだ。ことに俳句の稽古会などというシチュエーションなどを、考えた場合は、比較的若いグループは途中山道や沢道などのあるコースを望むであろうし、反対にやや老いた人々は、なるべく平坦な散歩道が安心で、好まれるであろう。そんなグループ分けをして置いた一行が、あるポイントにさしかかり、「健脚組」と呼ばれる数名が、一行から別れてやや厳しい道に進んで行くというのである。そんな場所に「富士薊」が咲いていたと詠まれると、山中湖畔の「老柳山荘」付近の溶岩道も目に浮かんでくるような気がした。グループ全体の華やいだ気分が伝わってくる。(本井 英)

雑詠(2023年1月号)

健脚組ここで別るる富士薊		岩本桂子
菜虫とる雫するほど手の濡れて
屈みたるまま一畝の菜虫とる
見下しにちらと湖見え富士薊
小さき庭つまらなさうにとんぼ去る

湯ざめして人形一つ撃ち落とす		近藤和男
プレス屋の夜食国際色豊か		矢沢六平
大年の没りぎはの日の射しきたり	藤永貴之
形見分け終はりし午後や小鳥来る	都築 華