月別アーカイブ: 2022年6月

課題句(2022年6月号)

課題句「河骨」        武居玲子 選

河骨や何か跳ねたる水の音		山内裕子
沼舟の波河骨に消えゆけり 
河骨の葉のつやつやとして開花		小沢藪柑子 
河骨の黄の明るさに空も亦		原 三佳
河骨や水鏡にも力づよ		藤永貴之  
河骨の蕾こつんと黄を兆し		本井 英

薫風や鉋の背より鉋屑   山口照男

 一読、「鉋の背より鉋屑」のフレーズに心を奪われて、とびついてしまう読者も少なからずあるかと思うが、この句はどこまでも「薫風」が季題。「薫風」がテーマである。確かに映像的にこの句を味わおうとすると、「鉋」の「刃」の裏側、即ち「背」からしゅるしゅると飛び出して来る極々薄い木の片が印象的に眼に焼き付き、読者は作者の「技量」をそこに見ようとする。一句の中心がそこにあるなら、「薫風や」でも「万緑や」でも「五月晴」でも、作者の手柄は大して変わらないことになる。たしかに「鉋の背より鉋屑」は気持ちの良い、スピード感のある表現には違いないが、「薫風」という季題の持つ乾いた清涼感の中に置いて、はじめて活き活きと目に見えてくる点を忘れてはならない。浮世絵版画にでもありそうな、肯定的な空気感、清潔な生活感が一句を包んでいる。それもこれも「薫風」がもたらしているものである点を強調したい。(本井 英)

雑詠(2022年6月号)

薫風や鉋の背より鉋屑		山口照男
糸蜻蛉息をころすと言ふことも
シャープペン押して引つ込め梅雨深し
梅雨の森大聖堂のごと静か

又夜が来て薄氷を張つてゆく		北村武子
住職は炬燵に死亡届置く		藤野 澪
ある晴れた日に流氷が遠くから		小沢藪柑子
恢恢と土に影あり春隣		青木百舌鳥

主宰近詠(2022年6月号)

野に咲けば   本井 英

春めくや釣堀からも人の声

初島も見ゆ梅の坂登りきり

薄埃かうむりながら蜷すすむ

八橋に屈めば蜷の道真下

蜷の道ひき返すことあるべしや



蜷の髭短きことも愛らしく

雨吸うて土たのもしや名草の芽

春眠へいま堕ちてゆく五体かな

春眠の甘さ瞼になほ残り

蔦の影たどれば蔦の芽の影も



浜へ川細り浜大根の花

野に咲けば野の明るさに福寿草

極楽洞とよ春の闇蟠り

巣作りの鴉や甘き声こぼし

蕾そろそろ二輪草畳なし



浜へ川細り浜大根の花

野に咲けば野の明るさに福寿草

極楽洞とよ春の闇蟠り

巣作りの鴉や甘き声こぼし

蕾そろそろ二輪草畳なし