日別アーカイブ: 2022年5月2日

課題句(2022年5月号)

課題句「虹鱒」	小沢藪柑子 選

渓水は虹鱒沢へわかれをり		藤永貴之
岩陰ゆ虹鱒釣の竿をのべ

山水を引いて虹鱒飼ふといふ		山内裕子
ヒラを打つときの虹鱒虹色に		本井 英
虹鱒や一トン放流せしと聞く		常松ひろし
虹鱒と美しき名を付けられて		根岸美紀子

吾が帽子かぶせてやりぬ磯遊  前北かおる

 季題は「磯遊」。「野遊」、「山遊」と並んで人気のある春の行楽である。「潮干狩」とはややことなるが、春の大潮は干満の差が大きいので殊に面白い。作者はまだ幼い子供を連れて、ここの磯場に来てみたのであろう。子供は夢中になって潮だまりを覗き込んだりしている。思いの外に磯で遊ぶ時間が長くなって、「子供」に帽子を被らせて来なかったことに気が付いた。春の磯の日ざしは存外強い。

 そこで一心に潮だまりを覗き込んでいる幼子に「吾が帽子」を被せてやることとなったのである。一句の味わいどころは、大きな「大人の帽子」をまだまだ幼い「子供の頭」に被せた、不思議なアンバランス。それでいて一層、あるいはだからこそ、その可愛らしさが心に沁みるところ。「ことば」の遊びではなく、実景に裏打ちされているところが一句の強みである。(本井 英)

主宰近詠(2022年5月号)

島定食    本井 英

ゆるゆると春立つメンデルスゾーン

春が来ましたと河面を上る浪

きつぱりと立春といふ言葉あり

紅梅の咲けばにはかに紅うすし

その後の敷島の道実朝忌



焼き玉の音へと春の丘下る

春の水よぢれほぐれて囁ける

蜷の道流れ横切るとき太し

蜷が身をゆするたび砂ながれけり

蜷に髭ありて見えたり見えなんだり



浜芝に襁褓換へをりあたたかし

歌枕いくつたづねて三千風忌

三千風忌修することも愉しさに

コンビニといふもののなく島の春

磯遊にはあやにくのけふの風



海坂の裏には春の島いくつ

春の日をあびて磯鵯男伊達

壺焼を副へて島定食となん

花アロエ鮑の殻を灰皿に

チューリップ寄せ植ゑにしてさらに愉し