潟船へ月の歩板の高々と   藤永貴之

 季題は「月」(秋季)である。「潟舟」は辞書的には八郎潟で用いられた細型の和船の謂となるが、現在八郎潟のものは姿を消しているというので、有明海あたりの「干潟」に置かれたような状態の船を表現する造語と見た。地元ではそのように呼ぶのかもしれない。

 通常の港湾ではめったにないことであるが、有明海のように干満の激しい海域では干潮時には船溜まりの海水さえ引き切ってしまって、船がそのまま海底に置かれたような状態になることが少なくない。

 そんな船と堤防との間に掛け渡されるのが「歩板」。せいぜい巾三十センチほどの板である。その歩板に今、秋の月光が当たっているのである。皓々と照らす月光は「歩板」だけでなく船体も干潟も遍く照らし出している。そして照らされた部分が明るければ明るいほど、今度は「影」にあたる部分は黒く暗い。たとえば高々と渡っている「歩板」が潟面に落とす「影」の黒いこと。絵筆持たぬ身ながら、是非一枚の絵画に残したいような場面に見えた。(本井 英)