花鳥諷詠ドリル ‐主宰の句評‐ 第97回 (平成18年9月8日 席題 蚯蚓鳴く・女郎花)

にぎやかにはるか利尻の鰯雲
 利尻・礼文という島がありまして、稚内から西にあるんですが、けっこう近く見えて、稚内飛行場に着くと、地続きかと思うんですが、サロベツ原野あたりから見ると、途中に海がある。ともかく利尻富士というのはきれいな山なんですが、はるかな利尻の西空いっぱいに鰯雲がかかってをった。というので、「にぎやかに」というところに、ある気分があると思いましたね。  
点滴の密かに落ちて虫の鳴く
 季題は「虫」です。患ってをられて、点滴の一時間とか二時間とか長いものがありますけれども、けっして急ぐことなく点滴が落ちていく。それをじーっと見ていると、虫が自分を励ましてくれるように、りーんりーんと虫が鳴いてをった。ということで、夜になって見舞客も来なくなって、点滴と自分しかそこにないという、病と闘う寂しさがよく出ていると思いました。  
そこだけに風吹いてをり秋桜
 これはたいへん賛同者が多かったので、加えることはありませんが、厳密に言えば嘘なんですね。どこも吹いているはずなんだけれど、それをそう見えたということで、これは表現なんですね。現実を正確に言おうとしているんでなくて、見えたとおりに、ある意味では主観に委ねるということで、やり方としてはひじょうに俳句的で、よくわかる句だなと思いました。  
目一杯身を伸ばしたる蝸牛かな
 面白いですね。なめくじだと伸ばしたとかわかるんですが、実は蝸牛、かたつむりも、ぎゅーっと伸びた時には、伸びるんですね。それを「目一杯身を伸ばしたる」とおっしゃったところが、見てると。いかにも見てるという感じがして、いい句だなと思いました。  
梨園の入口は別長屋門
 大体いなかの長屋門のあるような大百姓のところに、梨園もあって、きっと観光梨園になっているんでしょう。受付はあっちですよ。なんて言われて、主の庄屋みたいな家はここにある。という、いかにも、江戸の郊外の昔からの豊かな農村地帯という感じがしてくると思いました。