ゆるやかに科をつくりて独楽止る 藤永貴之(2015年1月号)

 季題は「独楽」。正月の男の子の遊びである。「科」は「具合の悪いこと」。この句の場合は「独楽」が止まろうとする、あるいは倒れようとする「兆候」というようなことであろう。勢いよく回り始めた「独楽」は当初、澄み渡るような安定感で回っている。「回っている」ということさえ感じさせない。まことに安定した、「静止」と見まがうような姿だ。それが回転数が下がってくると、どこかに不具合を感じさせる、いびつな回り方を始める。それが「科」ということであろう。大きく首を振り始めると、決して治まることなく「揺らぎ」始め、終には「止まる」。そのあたりの「独楽」の様子を、実感をもって表現している。どこかに寓意的な感触を示しながらも、理屈っぽい「寓意」に堕してはいない。作者の「じっと案じ入る」心の強さも見えてくる。(本井 英)