第零句集『赤と青』を読んで (前北麻里子)
「原家に紙上ホームステイ」させていただいたき、ありがとうございました。はつらつとした、太陽のような三佳さん。世界を相手に仕事をこなすスーパーウーマンでありつつ、私にとっては母業先輩。母としての句が印象に残りました。
一日で日焼けせし子の話し止まず
保育園の遠足だったのでしょうか。太陽の下、一日遊び通した子供。その止まない話に、愛しい気持ちで耳を傾ける親。子供のころは、大人になってからの感覚よりも、時間を長く感じたような。この子にとっては、本当に長く、充実した一日だったに違いありません。きっと帰りのバスは寝てたんじゃないかな。
朝顔の赤は妹の青は僕の
弟妹の誕生を、素直に前向きに受け入れる幼い兄。母初心者の私は涙ぐんじゃいましたよ。その後、やっぱり全部僕の!ってなっているかもしれませんが。
春泥をほっぺにつけし笑顔かな
まだまだ肌寒い春先。さすがに水遊びはまだでしょうが、泥が頬に付くほど夢中で外遊びを楽しむ子供。春が来た喜びが、生き生きと伝わります。
娘二歳向日葵育つごとくあれ
明るく、強く、真っ直ぐに。二歳になった、夏生まれの幼い我が娘に望むのは、百合でも薔薇でもなく、向日葵らしさ、です。
ごきぶりに母とし装ふ平気かな
母は強し、ですが、やせ我慢も。明るい やせ我慢、面白いです。
賽銭にどんぐり混ぢる地蔵かな
子供の身近に、お地蔵様があるんですね。
笑い初めせむとて皆で笑ひけり
新年の、若い若い、明るい家族の風景。「笑い初め」という言葉自体、子供は初めてなのでは。
つなぐ手もつながるゝ手も悴める
小さい子供は、手袋を嫌がったりすぐに落としたりで、だいたい素手。そんな手も自分の手も、同じくらい冷たいと気付く。ふとした小さな発見。
ランドセル開けては締めて入学子
今までのものとは全く違う、特別な鞄、ランドセル。ばちん、ばたん、とせわしなく触らずにはいられない姿に、入学前のわくわく・そわそわが見られます。
てふ見れば蝶々歌ふ子らであり
しかも、ふわふわ踊っていそうですね。素直に明るく育っていることを目にした嬉しさ。
跋で、「四季は変哲なく巡って季題も又然りですが、その中で確実に育まれるものがあることを、とてもありがたく思います」と、三佳さんが書いています。全くその通りだと思います。『赤と青』は、生きる喜びにあふれた句集だと思いました。
インドでは、どんな俳句が生まれるんでしょうか。どんぐりは、落ちているんだろうか。明るく生き生きした毎日を送られることに、違いはありません。