夏潮第零句集シリーズ 冨田いづみ『島』~リズムのままに~ インタビューを追加

夏潮第零句集シリーズ第2巻第3号 冨田いづみ『島』

 

夏潮第零句集、今月は冨田いづみさんの『島』。

いづみさんは、昭和四十七年東京都生まれ。平成十年、慶應義塾志木高等学校勤務時代に本井英主宰と出会い、俳句を始め『惜春』に投句を開始、その後『夏潮』に参加されている。最近はお忙しい中でもコンスタンに吟行会にも参加されている。

 

主宰の序文にもあるように、非常にマイペースで独特の感性をお持ちである。マイペースと言っても他人を不愉快にさせるようなものではなく、周りをほんわかとさせてくれる女性である。

それは家族を詠んだ句が12句もあることからわかるように、非常に素晴らしい家庭で育たれたからであろう。

俳句にもそれは表れていて、独特の擬態語、躊躇わない比喩の活用、難しくなくスッと入ってくる句のリズムなどが彼女の俳句の特徴であろう。ご自分の体内から沸き起こるリズムと季題との交感の波長が一致した時、穏やかながら我々をうならせる句を見せてくれる。

 一方で、ご自分の体内のリズムの句を詠まれているので、100句並べてみると単調な感じを受けてしまうことも否めない。古今東西の先人の俳句を詠みつつ、新たな境地へと踏み出されることも期待する。

フラメンコ踊りだしさう大椿 いづみ

→季題は「椿」。初作の頃の句だと思うが、思い切った比喩が成功している。言いっぱなしのぶっきらぼうな表現も、大椿の美しいがちょっと取り付く島の無い様子とマッチしてる。フラメンコの赤と椿の赤、ドレスの裾と椿の花びら。なるほどと感心した。

 

熱燗に共働きの夜更けかな いづみ

→季題は「熱燗」、寒い夜の寝酒として飲むものが季題となっている。

いづみさんの家族の句の良いところは、甘くなり過ぎないよう事実を季題に託して淡々と読んでいるところである。

この句も共働き疲れ切っているが、「熱燗」が悪い愚痴のこぼしあいの材料でなく、前向きな明日への活力となっているところが良い。

下五切字の「かな」が持つポジティブ力のお蔭であろう。そう考えると俳句形式を充分に活かした一句といえよう。

 

豊の秋ばんばの尻のまどかなる いづみ

→季題は「豊の秋」。いづみさんは旦那様共々の競馬好きである。これは北海道の「ばんえい競馬」を取材された時のものであろう。サラブレットの走るために研ぎ澄まされた体系とはまた異なる、大型で橇を引くための輓馬の様子を写生された。

 「天高く馬肥ゆる秋」の通り、この季節の馬の毛艶はまことに美しい。特に秋の濃い日差しを跳ね返す栗毛などの馬の美しさには息をのむばかりである。余談だが、私が10年以上前の天皇賞・秋のパドックで間近で見たサイレンススズカの完成された馬隊が15時の日差しに輝く姿は今でも忘れられない。閑話休題、この句は輓馬の尻を「まどか」と詠んだところが手柄。ローカル競馬の趣が描けている。

 

 その他印をつけた句を以下に紹介したい。

山盛りのムール貝食ふ遅日かな

白梅や夜空に星のごとくある

父よりも母がえらくて更衣

春を待つ心や君を待つに似て

落葉して沼に波紋のひろがらず

父母と別れてよりの花疲れ

フリージア音符のやうにつぼむかな

春泥をぬんぬん踏んで登山靴

島の子と星座たどれば流れ星

ちくちくとロッジの毛布厚きこと

吹き晴れて吹き晴れてゆく四温かな

(杉原 祐之 記)

 

(11月25日追記)

冨田いづみさんにインタビューをお願いしました。

 

Q:100句の内、ご自分にとって渾身の一句

 →島の子と星座たどれば流れ星

渾身の一句というより、タイトル『島』、西表島での思い出の一句。

これからも島の句をたくさん詠んで行きたい。

 

Q:100句まとめた後、次のステージへ向けての意気込み。

→「いづみさんの句」とわからないような句にチャレンジして行きたい。

もっと馬の句も詠んでみたい。

 

Q:100句まとめた感想を一句で。

→駆け抜けてその先にある冬日かな

 

 

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