越えて来し河幾流旅涼し  児玉和子(2012年10月号)

季題は「涼し」。具体的、身体的な爽涼感を表す場合もあるし、稍精神的な快適感、満足感を表す場合もある。ごく安直に使ってしまいがちだが、難しい季題と言えば、こんな難しい季題は少ないかもしれない。 作者は「旅」にある。家郷を出てから、随分と遠くまで来たりしものよと感じている。日本は海に囲まれた島国。湿潤な気候ゆえ山には雨がよく降る。そこで必然的に河が多い訳だ。東海道を西下する場合を思い描いてみても、太いものだけでも多摩川、相模川、富士川、安倍川、大井川、天竜川などなど。「旅」はこれらの河を越えて続けられる。江戸時代であれば、橋のある河、橋の無い河、自ら徒渡る河、舟で渡される河。「河」は旅のポイントでもあるわけだ。新幹線で寝ていては味わえない旅の苦労と風情がある。 表現のポイントは「幾流」。「河幾本や」でも「河幾筋や」でも句にはなる。そこを「幾流」としたことで、一つ一つの「河」への思いも籠められ、景も見えてくる。(本井英)

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