磯竈子どもの出たり入つたり 藤永貴之(2012年4月号)

「磯竈」が春の季題。虚子編『新歳時記』には「若布刈の海女のあたる焚火の囲ひで、磯焚火ともいふ。三重県志摩の漁村の風習で、十四、五人も一緒にあたれるくらゐの大きさに、周囲を円く笹竹で丈余の高さに囲うたものである。入口は東に向つて小さく開ける」と詳細な解説が施されている。「入口は東」云々とまで書かれるとその理由を聞きたくもなるが、「海女」という生業への不思議なロマンチシズムが季題解説にまで及んでいるようで面白い。一句も、上五の「歳時記」の解説を膨張させたような空想と、中七・下五の「現実味」が不思議に交錯して、読む者を季題の世界に引っ張り込んでしまう。「ほんとかしら」と思いながらも、「そんなことも、あろうよ」と納得する。作者の術中に敢えて嵌る楽しみ、といったものであろうか。「男子禁制」の「磯竈」の雰囲気を上品に形にした。(本井英)

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