石積みの上にぽつかり刈田かな 矢沢六平(2012年2月号)

季題は「刈田」。稲刈りの済んだばかりの田である。暫くすると穭が生い出、やがては「冬田」となる。「石積み」ということは棚田になっているのであろう。夏場、稲の丈が揃ってからは毎日、一定の嵩のある田の面であった。それが「稲」を刈り取ってしまうと、あっけらかんと、頼りなげな空間が広がるばかりとなってしまう。作者は棚田に沿った畦道を下の方からゆっく登っていったのである。そしてある場所にさしかかると、何日か前までとは違う空間、「あった物がないという空間」が目に入ってきたのだ。「ぽっかり」という状況を見出した軽い驚きが一句になっている。毎日田んぼの中で暮らしているからこそ、得られた新鮮な「驚き」であろう。(本井英)